第13章 この手が届くうちに【R18】
かすかに指が動いた。
少しだけ、脚にも力が戻ってきてる。
(……起き上がれる……?)
ソファの上で、ぐっと身を起こそうとした瞬間――
「……もうちょい寝とけって、言ったよな」
背後から、声が落ちてきた。
『……荼毘……っ』
気づけば、彼の腕はまだ私の腰にまわされていて、ほんの少し動いただけで、その力がぎゅう、と強くなる。
「ほんっとに聞き分けねぇな。……そのくせ、誰にでも“いい顔”するんだよな」
『……っ、なに……』
耳元に、わざとらしく吐息をかけるような声が落ちる。
「誰のもんだ? ……爆豪か? それとも……轟焦凍?」
その名前が出るたび、心臓がずき、と揺れた。
「まさか、ホークス……だったりしてな。あいつの視線、わかりやすかったもんな。……ああ、そっちの方が、似合ってるかもなぁ?」
『……やめ、て……っ』
「やめろ? へぇ……なんで? 心当たりでもあんの?」
そう言いながら、荼毘の指先が、鎖骨の下あたりをなぞる。
そこにあるのは、以前ホークスからもらった、あの――
『っ……!!』
びくりと肩を震わせた私を、荼毘は愉しげに見下ろして笑った。
「なぁ、お前さ……結局、誰のもんなんだよ?」
問いかけというより、追い詰めるための呪文のように、それを繰り返してくる。
「俺? あいつら? それとも……お前自身?」
何も言えなかった。
ただ、うつむいたまま、震える肩を押さえることしかできなかった。
「いいよ、答えなくて。……俺が決めてやる」
次の瞬間、視界がぐらりと傾く。
『きゃ……っ』
荼毘に肩を抱かれたまま、ソファから引きずり下ろされ、床に押し倒された。
「ちゃんと、わからせてやるよ。お前はもう、“こっち側”だってこと」
その目に灯るのは、狂気と独占。
それは炎より熱く、でも氷のように恐ろしかった。
(嫌……っ、嫌……)
どこにも逃げ場なんてないのに、
私は胸の奥で、名も呼べない祈りを呑み込んでいた。