第12章 あの日の夜に、心が還る
昼下がりの木陰、陽の光がまばらに差し込む中。
私は、小さな飴玉のような光の結晶を両手にそっと包んでいた。
さっきまでの訓練で、何度も挑戦して、ようやく生まれた──“私の想い”。
『……先生』
声をかけると、相澤先生は静かにこちらへと歩いてくる。
視線が落とされた私の手元に向かい、ゆっくりと口を開いた。
「できたのか?」
『……はい。たぶん、これが“かたち”になったものです』
淡く揺れるその光は、私の鼓動と同じリズムで、静かに震えていた。
「なら、使ってみるか」
そう言って、先生は手元の包帯を解き、袖の下から刃物で自らの手の甲を切りつけた。
『せ、先生っ!?』
焦って声を上げる私を制するように、目だけで「平気だ」と告げてくる。
血がにじむ、その傷に──
私は、震える手で結晶を差し出した。
『これを……飲んでみてください』
先生は一瞬だけ眉を寄せたが、無言でそれを受け取り、口の中へと放り込んだ。
淡い光が喉を通り抜け、消えていく。
しばらくの沈黙が流れた。
その間に、先生の手の甲の傷口が、少しずつ──
まるで時間を巻き戻すように、綺麗に塞がっていく。
「……治ったな」
その低く呟いた声に、私は胸の奥がじわっと熱くなるのを感じた。
「痛みも引いてる。副作用も、ない」
『本当……?』
「本当だ」
先生はそう言って、静かに私の頭をぽんと撫でてくれた。
「……よくやったな」
その一言に、目の奥が熱くなった。
『……ありがとう、ございます……!』
「……だが誰にでも効くかどうかも、どこまで治せるかも、わからない。けど──“力”のかたちになったことが大事だ」
きっとこれは、まだ始まりにすぎない。
けれど確かに、私の“力”が、誰かを救うものになった。
──この手で、未来をつくっていける。
私は、もう一度、両手を見つめた。
温かい光が、指先に残っていた。