第12章 あの日の夜に、心が還る
手のひらに、なにも生まれない。
何度目かも分からない挑戦。
そのたびに集中して、願って──でも、指先があたたかくなるだけで、何も“カタチ”にはならなかった。
『……どうして。気持ちは、ちゃんとあるのに』
少し離れた場所では、轟くんの炎と氷がぶつかり合い、上鳴くんの電気が火花を散らしてる。
みんな、それぞれのやり方で、自分の“強さ”を磨いてる。
私は、なんなんだろう。
戦えて、人を癒すこともできるのに……
それだって、目の前で誰かが傷つかなければ、使えない力。
『……それでも、できるって信じたくて、ここにいるのに』
汗が頬を伝ったのか、悔しさのせいか、よく分からなかった。
両手を胸元に引き寄せて、ゆっくりと瞳を閉じる。
今度は、少し深く、もっと静かに心を澄ませて──
思い浮かんだのは、大切な人たちのこと。
こんな私を暖かく迎えてくれるクラスのみんな。
いつも静かに見守ってくれる相澤先生の姿。
悪態つきながらも守ってくれた勝己の背中。
静かに寄り添って安心させてくれる焦凍の笑顔。
――そして小さい頃から私を見ていてくれた…ホークス。
その全てを──守りたい、と思った。
『……お願い、ひとつでいい。小さくてもいいから──』
その瞬間だった。
ふわ、と。
両手の間に、わずかな光が生まれた。
最初は気のせいかと思ったけど、ちゃんとそこに“在る”。
淡くて、あたたかくて、まるで雫のようにゆらゆらと揺れていた。
ほのかに透ける白と、ほんのすこしだけ淡い碧を帯びた光。
手のひらにのせたら、まるで飴玉みたいに、くすぐったく光った。
『……できた、』
思わず、声がこぼれた。
それは、世界でたったひとつ──
“わたしだけの想い”から生まれた、小さな結晶だった。