第12章 あの日の夜に、心が還る
夕焼けが森を染めていた。
橙に染まる木々の隙間から、ひんやりとした風が吹き抜ける。
訓練を終えた私たちは、それぞれに汗を拭いながら、合宿所への小道をのろのろと歩いていた。
『……つかれたぁ……』
誰ともなく漏れたその声に、何人かが「わかる〜」と笑いながら頷く。
私のポケットの中では、今日生み出した光の結晶たちが、ころんと小さく転がっていた。
ちゃんと“形”にできた、それが何よりも嬉しくて、歩きながら時折そっと指先で触れてしまう。
そのとき、隣にいた焦凍がちらりと私を見て、静かに口を開いた。
「……手、震えてる」
『えっ、あ……ほんとだ』
いつの間にか、指先に力が入らないくらいには、体が疲れてたらしい。
でも、不思議と嫌じゃなかった。むしろ、心地いい疲労だった。
「無理すんな。お前は、思ったより頑張りすぎるから」
『ふふ……そうかも』
焦凍の言葉がやさしくて、胸の奥がふっとあたたかくなった。
前を歩く上鳴くんと切島くんは、もうすでに今日の筋肉痛の話で盛り上がっていて、
少し離れたところでは、瀬呂くんと三奈ちゃんが泥だらけのジャージを笑いながら見せ合っていた。
こうして見ると、どの顔も疲れているのに、どこか満足そうだった。
『──みんな、すごいな』
ポツリとつぶやいた私に、背後から聞こえた低い声。
「お前もな」
振り返ると、いつの間にか歩幅を合わせていた爆豪が、少しだけ視線をずらしながら言った。
『……ありがとう』
それしか言えなかったけど、伝わっているといいな。
合宿所の明かりが見えてきたころには、空はもうすっかり暮れていた。
今日という一日が、終わっていく。
でも、確かに一歩ずつ進んでいる──そんな実感が、胸いっぱいに広がっていた。
『……明日も、がんばろ』
そっとポケットの中の結晶を握りしめて、私は静かに笑った。