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【ヒロアカ】re:Hero

第4章 優しさの証


轟side

演習場に響く氷のひび割れる音。
自分の放った個性が、床から壁へ、白銀の牙のように走る。
すでにほとんどの侵入経路を塞いだはずだった。だが――

(……まだ動けるやつがいたのか)

視界の先に立っていたのは、星野。

薄く汗を滲ませながらも、まっすぐな瞳でこちらを見ている。
その体は、個性の発動が許されない中で限界まで動いていたはずなのに、なお戦意を宿していた。

「……来るなら、来て」

淡々とした声。だが、揺るぎない意思を感じた。

彼女が一歩、前に出る。
その仕草に、ほんの少し、胸が鳴った。

(足場が氷だとわかっていて……それでも下がらない)

踏み込む。最短距離。迷いのない速さで拳を振る。
だが、星野はわずかに身をひねり、その拳をすり抜けるように避けた。

(……うまい)

旋回して背後を取ろうとする動き。無駄がない。
咄嗟に身を引いてかわす。だが――

「……個性も使えないのに、ここまで動けるのか」

その言葉は、ただの感想ではなかった。

(こいつは……想像以上だ)

攻撃を受けた時の衝撃。
膝蹴りの鋭さ、踏み込みの重心、読み合いの速さ。
どれも、単なる身体能力だけじゃ説明がつかない。

(……これが、“諦めない”ってことか)

何度でも向かってくる目。
ひるまず、迷わず、ぶつかってくる姿勢。

(……オレには、ないものかもしれない)

滑ったふりをして体勢を崩した彼女が、振り向きざまに放った踵落とし。
完璧なタイミングだった。

だからこそ――

バランスを失った彼女の身体が、横へ大きく傾くのを見たとき。

気づいたら、手を伸ばしていた。

(届け……)

伸ばした手が、ほんの一瞬、間に合わなかった。

ゴン、と柱の角に頭を打ちつける音がして、星野がぐらりと沈む。
崩れるように倒れた彼女の横で、拳を握りしめる。

「……!」

駆け寄って、その身体を抱き起こす。
その呼吸が弱くなっていないか、不安に胸がざわつく。

彼女の睫毛が震えて、閉じられた瞼の奥に何を見ているのか、知るすべはない。

(……俺は)

ほんの少しの遅れが、彼女の意識を奪った。
助けようとして、助けられなかった。

(なぜ……こんなにも、悔しい)

氷よりも静かに、自分の中に染みてくる熱があった。
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