第12章 あの日の夜に、心が還る
男子side
ざばぁ、と湯の波が立ち、ほわりと上がる湯気の向こう。
男湯の露天風呂には、疲れを癒すようにのんびりと肩まで浸かる声たちが広がっていた。
「ふぃ〜〜〜〜〜、まじで……生き返る……」
上鳴がふやけた顔で湯に浮かびながら、満足そうに言った。
「合宿一発目から山ん中ぶっ飛ばされて、マジ死ぬかと思ったし……!」
「わかる。岩のバケモン強かったよな〜……俺、3回くらい埋まったし」
瀬呂が苦笑して頭をかき、横で切島が「でもおかげで体温まってる気すんぞ!」と元気に笑う。
ぱしゃっとお湯をはねて、皆がそれぞれ気持ちよさそうに湯に溶け込むなか。
「──ふん」
「……なんか、向こう、やけに賑やかだな」
爆豪が腕を湯船の縁にかけ、隣の岩の仕切りの向こうに目を細める。
確かに、聞こえてくる。
はしゃぐ声。甲高く響く「キャ〜♡」なんて音も──。
「女子ってさ、なんで風呂入るとあんな盛り上がるんだろうな〜」
「……いや、盛り上がる理由は、だいたい想像つくけど」
上鳴が鼻の下をのばしながら言うと、緑谷がぷくっと頬を膨らませた。
「な、ななに考えてるの!?そ、そりゃ……ほら、普通に楽しんでるだけだよ!」
「いやいや、だってほら……なんか言ってたぞ?“見た目じゃわかんないけど実はすごい”とか」
「“脱いだらすごい”ってやつ……あれ……」
「ぜったい想花ちゃんのことじゃね!?」
「やばいやばいやばいってマジで!!」
「尊い……」「合掌……!!」
「おまえらうるせぇぞ」
爆豪が低く唸って眉をしかめるも、耳はしっかり会話のほうに向いていた。
「でもさ……」
ふいに、ぽつりと轟が湯から顔をあげた。
静かに空を仰ぎ、遠くに響く楽しげな笑い声に、ふっと口元が緩む。
「……声だけで、なんか、癒されるな」
そのひとことに、場の空気が一瞬だけ落ち着いた。
切島も湯からあごを出して、やわらかく頷く。
「わかる……今日めっちゃバトったからさ……なんか、こういうの、いいよな」
「…普通に落ち着くよなぁ……」
「……なあ、見た目じゃわかんないけどって、マジでどんぐらい──」
「だめだってばぁ!!!」
「むしろ見せてもらいたい──」
「落ち着けええ!!」
わちゃわちゃと騒ぐなか──
ひとり、何も言わずに風呂の端へと静かに歩いていく男がいた。
