第12章 あの日の夜に、心が還る
夕暮れが、森の向こうからじんわりと滲んできていた。
空は茜に染まり、虫の声が、ぽつぽつと草の陰から響きはじめる。
私たちはウッドデッキで、冷たい麦茶を飲みながらその時間をのんびり味わっていた。
『……そろそろ、かな』
そう言った瞬間──
「うおおおおおお!! つ、ついたあああああ!!!」
「足が……もげる……」
「いや……体力……おれの体力返して……」
ものすごい声とともに、山の奥から現れたのは、土と汗まみれの1-Aメンバーたち。
髪も服もぐちゃぐちゃで、もはや誰が誰だかわからないくらい。
「ひ……ひどい……! なんで私だけこんな目に……!」
「俺はもう……一生地面歩かないと誓った……」
『お、お疲れさま……!』
「待って、星野!? 芦戸!? 麗日も……なんでそんなに涼しげなの!?」
三奈ちゃんがちょっと得意げに胸を張って、
「へへっ、飛ばしてもらっちゃったの♡」と笑う。
お茶子ちゃんも、「私たち、空の旅でした〜」と手を振った。
「ずるくね!?」
「そんなん、ありかよ!?」
「星野天使か……?」
みんなの声が、半ば本気の羨望まじりで飛んでくる。
『え、えへへ……ごめんね、なんか……』
「くっそ、羽が生えてりゃ俺だって飛んでるっての!」
ぐでんと座り込んだ上鳴くんが、麦茶の入ったグラスをじーっと見つめてから、
「なぁ……それ、ひとくちだけ……」
『いいよいいよ、はい』
差し出すと、すごい速さで手を伸ばしてきて、がぶがぶ飲み始める。
「……生き返るぅぅぅ……」
疲れ切った顔が一気にゆるんで、隣で瀬呂くんも「神……」とか言ってる。
「……まあ、お前らが無事でよかったよ」
声がして、顔を向けると、勝己が土埃まみれのままこちらを見ていた。
『勝己も、お疲れさま』
彼はふん、と鼻を鳴らすとそのまま奥へと歩いて行ったけど、
ほんの少しだけ、目が柔らかかった気がした。
──こうして、1-A全員、無事に到着。
疲労と汗と泥にまみれた、でもそれもきっと、
この夏の“はじまりの証”みたいに感じた。
これから何があっても──きっと、大丈夫。
そんな気がしていた。