第11章 ドキドキ期末
フィールドに立った瞬間、空気がぴんと張り詰めた。
目の前にいるのは、イレイザーヘッド──相澤先生。
その眼差しに見据えられるだけで、肌がひりつく。
緊張で、心臓の音が耳の奥で響いていた。
『……よろしくお願いします、先生』
「手加減はしない。……本気で来い」
視線が交差した瞬間、私の中で何かがぴたりと静まった。
──個性が、封じられた。
想願。
私の“願い”の力は、今、ただのひとかけらの意志に変わる。
でも、それでいい。
私は足を踏み出す。
考えるよりも先に、体が動く。
研ぎ澄ませるのは、感覚。風の流れ、先生の足音、ほんのわずかな視線の動き──
(視界から外れれば、個性は使える。……でも、それが全てじゃない)
先生の捕縛布が飛ぶ。私は身をかわす。
縛られそうになる瞬間にしゃがみ込み、横に滑って抜ける。
頭では追いつけないから、心で読む。直感で、掴みにいく。
何度も何度も挑みながら、私はひとつの“タイミング”を探していた。
(一瞬でいい。先生の視線が、少しだけ緩む、その瞬間──)
追い詰められたふりをして、あえて壁際に追い込まれる。
ぎりぎりの距離で、私は一歩を踏み込む。
視界の端、先生の髪が揺れて──
(──今!)
掌の奥に、再び想いが戻る。
“願い”を込めた光の粒が、一瞬だけ空気を照らし、私は反射的に飛び込んだ。
『──っ、!!』
彼の捕縛布を反転させるように掴み、体ごと絡めて動きを止める。
抑えつけるんじゃない。
“止まってもらう”ための全身の力を込めて、私はそのまま先生を地に伏せた。
静寂。
息が荒くて、鼓動がまだ落ち着かない。
でも、ちゃんと見ていた。
先生が、僅かに目を細めて──
「……合格だ」
その言葉が、体の芯にしみた。
誰よりも厳しい人に、ちゃんと届いた。
『ありがとうございます……!』
心からそう返すと、ようやく全身の緊張がほどけていった。
この“願い”はただ光るだけじゃない。
戦うために、誰かを守るために、ちゃんと届くんだ。
──私は、ちゃんとここにいる。
それを証明できた気がした。