第4章 優しさの証
模擬ビルの一室。そこはロケットのある防衛拠点で、私は尾白くんと並んで気配をうかがっていた。
空気は張り詰め、緊張が肌に刺さるほどだった。
(来る……)
何かが近づいてくる。
その瞬間、空気の温度がすうっと下がった。
壁に沿って冷気が走り、床のタイルに白い結晶が広がっていく。まるで目の前で冬が芽吹いていくように、凍てつく気配が部屋全体を覆った。
足元に、ひやりとした冷たさが這い寄る。
『尾白くんっ!』
思わず声が出た。
すぐに肩を掴み、自分の体を引き上げるようにして彼に支えてもらう。
『ごめん、ちょっと支えて――!』
尾白くんは驚いたようにこちらを見たけど、すぐに頷いて身体を差し出してくれた。その腕に体を預けるようにして、私は足元を凍結から逃がした。
背後で、凍りついた床が静かにきしむ音がした。
扉の隙間から覗く廊下も、真っ白に染まっていた。
(……あっという間に封じられた。さすがだね、轟くん)
そう思った刹那、足音が近づいてきた。
規則正しく、迷いのない歩み。
姿を現したのは――轟焦凍。
冷たい光をまとったような瞳が、こちらをまっすぐに捉える。その視線の先には、ロケット、そして私たち。
けれど、その鋭い目がふとわずかに細められた。
「……まだ動ける奴がいたのか」
静かな声だった。でも、その奥には小さな驚きと、わずかな警戒がにじんでいる気がした。
私は尾白くんの肩に手を置いたまま、拳をそっと握る。
(予想、外せた?……ちょっとでも、揺らせたなら上出来だよね)
氷に閉ざされたこの空間で、私たちはもうすでに不利な立場にいる。
個性も、思うように使えない。
だけど、私は――まだ立っている。
ヒーロー志望として、この場所で踏みとどまる理由が、ちゃんと胸の中にあるから。