第11章 ドキドキ期末
男子side
ハンバーグの余韻が残るリビング。
皿を片付け終えたあと、俺たちはそれぞれの席に戻って、静かに過ごしていた。
キッチンの奥から、お湯の流れる音がかすかに聞こえる。
想花が風呂に入っている──ただそれだけのことなのに、なんだかみんな妙に落ち着かない。
切島はプリントを手にしながらも、視線は何度も廊下の方へ。
瀬呂は口を閉ざしながら、箸で空のグラスをくるくる回している。
「……なあ」
不意に、上鳴がぽつりと声を出した。
「今ってさ、想花ちゃん、一番気抜いてる時間だよな……」
勝己がぴくりと眉を動かし、無言で睨む。
上鳴は慌てて手を振った。
「ちげぇちげぇ、変な意味じゃなくてさ! ……ほら、普段あいつ頑張ってるじゃん? 今日も、ずっと気張ってただろ」
誰も返さないけど──その言葉に、心のどこかが少しだけ静かに揺れた。
あいつは、強くて優しくて、どこまでもまっすぐで。
気づけば俺たちは、その背中を、笑顔を、いつも目で追っていた。
それが今、すぐそこにいて。
安心して、家で、お風呂に入ってる。
その事実が、なんだかやけに胸に沁みた。
「……ま、ちゃんと休めてんならいいけどな」
勝己がぽつりと呟いた言葉が、リビングの静けさにやさしく溶けていく。
ただの放課後なのに、特別みたいな夜。
誰もが、想花のことを思いながら──
けれど、それを言葉にできないまま。
少しだけ、心があたたかくなるような時間だった。