第11章 ドキドキ期末
玄関から伸びた廊下を抜けて、私は台所へと向かった。
『よし、じゃあ……ハンバーグ、つくりますか』
袖をまくって、冷蔵庫を開ける。ひき肉、玉ねぎ、卵、牛乳、パン粉。彩り野菜もOK。
今日のメニューはハンバーグ。男子たちが絶対喜ぶ、安定の家庭の味。
『……にしても、結構量いるなあ…』
ひき肉をボウルにどさっと入れて、塩をぱらぱら振る。玉ねぎをみじん切りにして、フライパンで炒めて冷まして──
手を冷水で少し湿らせてから、こねる、こねる、こねる。
『ん〜〜、この感触……久々……』
なんとなく口元がゆるんでしまう。
こうしてると、ほんの少しだけ“日常”って感じがして。
学校でもない、訓練でもない、ただ「誰かのためにごはんを作る」って時間が、こんなに愛しく思えるなんて。
──ふと、背中に気配を感じた。
『……えっ』
ゆっくりと振り向くと、そこには勝己が無言で立っていた。
腕まくりして、エプロンもせず、ただ真剣な顔で私の手元を見てる。
『か、勝己……?』
「……玉ねぎ、焦げんぞ。見てろ。俺やる」
そう言って、私の横にぬるりと並び、まるで当然のように鍋つかんで火加減を調整していく。
そして玉ねぎの状態を確認してから、まな板を取って、野菜を切り始めた。
……え、なにこの流れ、エモすぎてバグる。
『えっ、あ、ありがと……』
「黙ってやってろ。……お前じゃ、あのアホ共の腹は満たせねぇだろ」
ぴた、と音がした。ああ、包丁の音だ。
勝己が冷静にパプリカを細かく刻んでる。
『……勝己って、料理、できるんだね』
「家じゃたまにやってた。別に大したことねぇ」
そう言ってそっぽを向くけど、動きはすごく丁寧で、慣れてるのがわかる。
なんだろう。すごく……安心する。こういう彼も。
──その頃、リビングでは。
「なにこれ……え、5ページ目から全部応用問題なんだけど!?」
「俺もうちょっとで過去問理解できそうだったのにぃぃ〜!」
「かっちゃんの置き土産、えぐすぎん?!」
そう、勝己は料理をしながら、きっちり3人に**特製課題プリント(かなりハード)**を置いてきていたらしい。
夕飯前だってのに、3人の声はすでに半泣き。
でも、それも全部含めて、
──この時間が、私は好きだった。
勝己と肩を並べて、夕飯を作る。
こんな何気ない時間が、どうしようもなく、あたたかい。
