第11章 ドキドキ期末
玄関の鍵がカチリと音を立てて回ると、背後からぞろぞろと、でもどこか気のおけない足音がつづいてきた。
『……あがって。って、もう言わなくていいか。2回目だもんね』
「おじゃましま〜す!」
「よっしゃ〜今日もお世話になりまーす」
「お、家具の配置まで前と一緒。星野ん家、マジ落ち着くわ〜」
わちゃわちゃと楽しげに靴を脱ぎながら、それぞれ勝手知ったる様子でリビングに向かっていく背中に、私は思わず口元を緩めてしまう。
なんだろう。
たった1度来ただけのはずなのに、こんなふうに自然で、懐かしいような空気ができるのって、ちょっと不思議だ。
……でも、きっと一番慣れてるのは、勝己なんだろうな。
彼の背中を見ながら、ふとつぶやく。
『……勝己は、もう慣れたでしょ?』
すると振り返らずに、「……うっせぇ」とぽつり。
だけどその横顔は、なんとなく前よりあたたかくて。
私はただ、「うん」とだけ笑った。
『……また来てくれて、うれしいよ』
そのひとことに、ちらりと彼のまつ毛が揺れて──
小さく視線を逸らしたのが、ちょっとだけ可愛かったりして。
「さてさて、じゃあまずは……腹ごしらえ!って言いたいけど」
リビングのテーブルに教科書を広げながら、私はぱんっと手を打った。
『夕飯ができるまでは、ちゃんと勉強、だよ?』
「え〜〜!? まじか〜!」
「くっ……メシの誘惑に打ち勝たねばならんのか……!」
「ほら!お前ら、文句言ってねーで開けるぞ!プリント!」
みんなの声が重なって、リビングが一気に賑やかになる。
夕方の光がカーテン越しにやさしく差し込む部屋の中。
広げられたノートと、笑い声と、わたしの小さなキッチン。
──この時間が、あとで宝物みたいに思える気がした。