第11章 ドキドキ期末
午後の授業がすべて終わったチャイムが、ゆっくりと校舎に鳴り響いた。
『ふう……』
窓の外には、夕方のやわらかい陽射し。
一週間分の疲れが、じんわり肩にのしかかってくるようで。
でも、それと同時に、ちゃんとやりきったっていう感覚もあって。
私は自分の席でノートを閉じて、かばんの中にしまいはじめていた。
「──なぁ、星野」
声をかけられて顔を上げると、ちょっと周囲を気にしながら、上鳴くんが机に肘をついてのぞきこんできた。
『え?どうしたの?』
「今日、金曜だろ? んで、おまえ、ひとり暮らしじゃん?」
『……うん、まぁ、そうだけど?』
「だからさ、……こっそり勉強会とか、してくんね?」
『……え?』
あまりに小声すぎて、一瞬聞き返しそうになった。
でも上鳴くんは、真顔のままこっちに手で「しーっ」ってやってる。
『……そんなに内緒にしたいの?』
「そりゃそうだろ!普通に誘ったら……あいつが……!」
と、斜め後ろの席に目を向けた先では、峰田くんが机に突っ伏してウトウトしてる。
「……たぶん起きたら嗅ぎつける。そしたら、え!?勉強会!?どこで!?誰が来る!?何時!?女子の家!?!ってなるから、絶対ダメなんだって……」
『……まぁ、想像できるけど……』
くすっと笑いながら、私は少しだけ上鳴くんに体を寄せた。
『……で?どこでやるの?』
「うっ……やってくれるってこと?」
『誰かにバレたら、私じゃなくて上鳴くんが責任取ってね?』
「任せろって!……あ、でも料理のことになると洒落にならんから、そこだけは手加減してな?」
ちょっとほっとしたような、でもどこか申し訳なさそうな顔でそう言った彼に、私はゆっくりと頷いた。
『……じゃあ、スーパー寄ってから、ね』
「神か……おまえ、神かよ……!」
手を合わせて拝まれるのはちょっと照れるけど、まあ、嫌な気はしない。
たまには、誰かのために何かをしてあげたい。
その“誰か”が、ちゃんと信頼して頼ってくれたのなら、なおさら。
放課後の夕陽が、窓ガラスの向こうで赤く揺れていた。