第11章 ドキドキ期末
広い食堂の片隅。
人の波から少し離れた窓際の席に、ふたりで向かい合って座る。
『ほら、ここの接続詞さ、選択肢に惑わされないで。逆説って気づければ一発だから』
「……ふむ。なるほど、“but”ではなく、“yet”か……」
真剣な顔でペンを走らせる常闇くんに、自然と口元がほころぶ。
『ね、飲み込み早いよ。たぶん、ちょっとしたコツでぐっと点数上がると思う』
「お前に言われると……少しだけ、自信になる」
少しだけ照れたように目を伏せて、彼はそう呟いた。
『……ねぇ、ちょっと訊いてもいい?』
「なんだ」
『常闇くんってさ、どうしてヒーローになろうって思ったの?』
一瞬、沈黙が落ちる。
でも彼は、ゆっくりと顔を上げた。
「……影を抱えて生きてきた。力も、存在も……“恐れ”として扱われることが多かった」
『……うん』
「だけど、お前みたいな存在を見て──」
私を見るその瞳が、まっすぐだった。
「……“影”であっても、誰かを守るために使えると思ったんだ」
『常闇くん……』
「光にはなれない。だが、お前が眩しすぎるその背中に、俺はずっと勇気をもらってきた」
少しだけ俯いたその横顔が、どこか切なげで──
でも、どこまでもまっすぐだった。
『……わたしは、常闇くんが“影”だなんて思ってないよ。』
「……え?」
『“影”ってさ、光があるから生まれるんじゃない。……隣にいるからこそ、安心できるものだと思うんだ。』
そう、言葉にしながら私自身も気づいていた。
『常闇くんがいてくれたから、わたしも迷わずにいられた。お互い、絶対ヒーローになろうね』
静かに伸ばした手を、彼はほんの少し驚いたように見つめて──
そしてそっと、重ねてくれた。
「……ああ。必ず、なろう。共に」
手のひらのぬくもり。
それは太陽とは違うけど、ちゃんと心を照らす、やわらかな光だった。