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【ヒロアカ】re:Hero

第10章 翼の約束


福岡の空は、今日もどこか高くて澄んでいて、
この数日が夢みたいだったって思わせるには十分すぎるくらい、清々しかった。

ホークス事務所の前。
荷物をまとめたキャリーバッグの持ち手を握りながら、私は軽く息を吐いた。

『……終わっちゃった、か』

隣には常闇くん――ツクヨミが静かに立っていた。
彼も何かを思い返しているような、目をしている。

この数日間、いくつものことがあった。
飛び込んだ任務。火災現場。市民の笑顔。
そして、あの夜。

全部が、私にとって、忘れたくない時間だった。

「よう、ふたりとも」

軽やかな声が風と一緒に届いた。

振り返ると、そこにホークスがいた。
いつものラフな姿で、でもどこか、昨日よりも少しだけ静かな顔で。

「ツクヨミ」

「はい」

常闇くんが一歩前に出ると、ホークスは腕を組んで、うんと頷いた。

「おまえの冷静さ、オレは結構買ってる。鳥同士、また空で語ろうぜ」

「……光栄です」

それは、たったひと言だったけど。
常闇くんがほんの少しだけ表情をやわらげたのを、私は見逃さなかった。

「じゃあ、次は」

私に視線が移った瞬間――
胸が、きゅっと音を立てて締めつけられた。

「ウィルフォース」

呼ばれたその名に、思わず姿勢を正す。
彼の声が、さっきよりも少しだけ低くて、そして――優しかった。

「……いろいろ、驚かされたよ。おまえの成長も、度胸も、全部」

『……』

「でも、ひとつだけ言っとく」

彼は一歩、こちらへ近づくと、視線の高さをほんの少しだけ合わせるようにして言った。

「おまえは、“ちゃんと届く”力を持ってる。……想いでも、声でも、全部な」

『……ホークス』

言葉にならなかった。
ただ、胸の奥に熱いものが込み上げるのを感じた。

「この先、大変なこともあるだろうけどさ。おまえなら大丈夫。ちゃんと飛べる」

その声が、風に乗って、心の奥まで響いてくる。

「また来いよ。……オレはここにいるから」

そう言って、彼はふっと笑った。

だけど、あの瞳の奥――
見慣れたその“軽さ”の中に、ほんの一滴だけ、色の違う“本音”が混ざってる気がした。

そして私は、その優しさに、また一歩、心を奪われていた。
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