第10章 翼の約束
想花side
午後のパトロール中、商店街の中ほどで、不意に人だかりができていた。
何かと思って駆け寄ると、まだ小さな男の子が、車道に落ちた帽子を追って今にも飛び出しそうになっていた。
『危ないっ──!』
迷わず駆け出して、瞬間的に個性を展開。
“意志の力”を飛ばすように前方へと押し出して、男の子の体をやわらかく引き戻した。
空気がふわりと震え、彼は驚いたように地面に尻もちをついたが、すぐ後ろにいた私はしっかりと受け止めていた。
「……え、あ、ありがとう、お姉ちゃん……!」
『ううん、大丈夫? もう飛び出しちゃだめだよ?』
その声に、周囲の大人たちが安堵の息を漏らす。
そして、母親と思しき女性が駆け寄ってきて、男の子をぎゅっと抱きしめた。
「ほんと、ありがとうございます……!まさか個性で、あんなふうに……」
『慣れてるから。きっと、誰だって同じことしたと思います』
そう言って頭を下げると、周囲から自然と拍手がわき起こった。
そのあとも歩いていたら、古い歩道橋の段差でつまずきかけたお年寄りがいた。
私はすぐさま駆け寄り、転ぶ寸前で腕を支える。
『危ないですよ……』
「おやまぁ、すまんねぇ……若いのに、しっかりしてるんだねぇ……」
『いえ、これでもヒーロー見習いなので』
少しだけ照れながらそう言うと、おばあさんはくしゃりと笑って、私の手をぽんぽんと撫でてくれた。
ほんの数秒で終わるような出来事。
けれど、その一瞬を守ることが、ヒーローの仕事だと──
私は、今日あらためて知った気がした。
ふと、吹き抜ける風に、どこか懐かしい赤い羽根の匂いが混じった気がしたけれど。
気のせいかな、と思って顔を上げると、青く広がる空がまぶしくて。
『……もっと強くなりたいな』
誰かを守れる力を、もっと。
そして、いつか──胸を張って、あの人の隣に立てるくらいに。