第4章 優しさの証
教室の窓から柔らかな光が差し込み、ノートの上をそっと包んでいた。
国語の授業が始まって、もう十数分。私は黒板をじっと見つめながら、丁寧に文字を写している。
前の席では八百万さんが整った字でノートをまとめていて、隣の三奈ちゃんは……どうやら途中から落書きに夢中みたい。
後ろの方からは、上鳴くんと峰田くんが小さな声でこそこそ話していて、先生に「しっ!」って注意されているのが聞こえた。
『ふふ、みんな賑やかだなぁ』
思わず口元がゆるんでしまう。
こんな穏やかで、どこか温かな空気は、きっと嫌いじゃない。
教科書に目を戻そうとして、ふと周りを見渡す。
爆豪くんは肘をついて、ぶっきらぼうに机を見つめている。
轟くんは静かにノートを取っていて、緑谷くんは真剣なまなざしでペンを走らせている。
(みんな、それぞれの想いを胸に、“ここ”にいるんだろうな)
文字を書く手を止めて、私はそっと目を伏せる。
『私も……ちゃんと、この教室の一員になれるかな』
知らないうちに、また自分の“居場所”を探してしまっているみたい。
でも隣には笑い合う三奈ちゃんがいて、話しかけてくれるお茶子ちゃんの声もある。
(きっと、私も大丈夫)
そう思うと、また自然に前を向いてノートに目を落とした。
午後からは“ヒーロー基礎学”。
ここからが、私の本当の一歩だ。
だから今、この静かな時間を心にそっと刻んでおきたい。