第3章 ヒーローの初試練
夕暮れに染まる校舎を背に、みんながそれぞれの帰り道へと散っていく。
私はほんの少しだけ疲れていたけれど、胸の奥には軽やかな期待がくすぶっていた。
「……おい、星野! ちょっと待てや」
背後から響いた声に振り返ると、眉間に力を込めた爆豪勝己が立っていた。
彼の瞳はいつもの激しさのまま、でもどこか…認めざるを得ない複雑な光を宿している気がした。
「……お前、体力測定で結構やるじゃねぇかよ。 なんでそんなに速えんだ、教えろ。」
『えっ、えっと……ただの努力だよ!』
答えた私の声は少し震えていたけど、嘘じゃなかった。
でも、爆豪の顔は真っ赤で、怒ってるのか、照れてるのか分からない。
「……次はぜってぇ、負けねぇからな」
必死に言い訳する私に、彼は熱を帯びた声で言い放った。
「……俺がまだ本気出してねぇだけだ」
その言葉を残して、爆豪は足早に去っていった。
彼の後ろ姿に、自然とクスリと笑みがこぼれた。
(爆豪くんは、きっと本当は認めたくないだけなんだろうな……)
そんな気持ちを胸に、私は歩みを進めた。
廊下の角を曲がると、切島鋭児郎と上鳴電気が小声で話しているのが耳に入った。
「なあ、星野ってさ、爆豪に気に入られてんじゃね?」
「マジかよ?あの爆豪が嫉妬してるみてえだぜ」
「でも、あいつ素直じゃねえからな……もっと絡まれるかもな」
「おもしれーな、これからが楽しみだわ!」
小さな声だけど、はっきりと届いて胸がじんわり温かくなった。
(あの二人、本当に楽しそうで羨ましいな……)
微笑みをかみしめながら、私は夕暮れの校門へと足を向けた。