第10章 翼の約束
「──今日は俺が、君たちの上司ってことで」
朝の光が射しこむホークス事務所のブリーフィングルーム。
真新しい制服姿の私たちに向かって、ホークスがいつもの調子で手を上げる。
けれどその目だけは、昨日までと違う。
“プロヒーロー”としての鋭さが、ちゃんと宿っていた。
「ウィルフォース、ツクヨミ。今日はお前らにも、実戦の“空気”を味わってもらう」
『……はい』
「了解です」
並んで立つ私と常闇くん。
制服の胸元には、それぞれヒーロー名を記したタグがついている。
ホークスは壁のホログラム画面をタップし、
福岡市内のパトロールルートや、注意喚起中のエリアを映し出した。
「まずは第三区の巡回に同行。ツクヨミ、お前は飛べねぇ分、地上の目を頼りにしてくれ」
「承知しました」
常闇くんが静かに頷いた。
ホークスは少しだけ視線を私に向けてから、
赤い羽根をふわりと一枚、宙に浮かべる。
「ウィルフォース、お前には少し先行して動いてもらう。俺の羽根でサポートするから、無茶はすんなよ」
『……了解です』
言葉に力を込めて応えると、彼は満足げに口角を上げた。
「それじゃ、行こうか。ヒーローさんたち」
福岡の街へ、一歩踏み出す。
私たちはもう、生徒じゃない。
市街地の風が頬を撫でる。
目の前に広がるのは、ただ“日常”だけれど──
その中に、ヒーローの仕事が確かに息づいていた。
遠くで聞こえるサイレン。
道路を走る救急車。
人々の笑い声や喧騒の奥に、トラブルの予感がちらついている。
(これが、“現場”なんだ)
私たちは今日から、ウィルフォースとツクヨミとして、
この街の安心を守る側になる。
──背を預けられる人がいる。
──頼られる誰かがいる。
緊張と、それ以上の期待を胸に抱いて、
私たちは歩き出した。
それは、小さな一歩だけれど。
でも、確かに──ヒーローへの一歩だった。