第10章 翼の約束

業務のほとんどが一段落した夕方、
事務所の窓からは、ゆっくりと茜色に染まりはじめた空が見えていた。

『……すごい、高い……』

案内されたのは、ビルの屋上。
福岡の街が小さく広がっていて、遠くに海がかすかにきらめいている。

「ここの景色、気に入ってるんだ」

ホークスが私の隣に立って、目を細める。
背後では風が吹き、赤い羽根がふわりと揺れた。

『……落ち着きますね。高いのに、不思議と怖くない』

「君には、空が似合ってるからね」

一瞬、胸が小さく跳ねた。

（……今の、どういう意味？）

けれど、ホークスは特に深い意味もなさそうに笑っていた。

「実はさ、今日君が来るって聞いて……ちょっと嬉しかったんだよね」

『……えっ』

「だって、また会えるとは思ってなかったから。夢みたいだったでしょ？　あの日のこと」

その一言に、心臓が強く脈打つ。

やっぱり――
夢じゃなかった。

『……あの高台。赤い羽根。いつも来てくれてた……の、ホークス、だったんですね』

「名前は言わなかったけどね」

彼は空を見上げたまま、少しだけ表情をゆるめた。

「泣いてた子が、まさかヒーロー目指してるなんて思わなくてさ。びっくりしたよ。……でも、嬉しかった」

『……私、ずっと……お礼も言えなくて』

「いらないよ、そんなの。……君が、生きててくれただけで十分だ」

そう言った彼の声は、あの頃と同じ――
どこまでも優しくて、まっすぐだった。

沈みかけた夕日が、彼の赤い羽根を金色に染める。
その景色が、なんだか涙が出そうなほど、きれいだった。

「……でも、今日改めて思った。やっぱり君は、あの時のままだ。――まっすぐで、強くて、」

「そして、俺が思ってたより、ずっと綺麗になってた」

『っ……！』

顔が熱くなる。
でも、目をそらしたくなかった。
彼の目の奥に、あの日と同じ“約束みたいなまなざし”があったから。

風が吹いて、羽根が一枚、私の肩にそっと触れる。
それはまるで、過去から届いた小さな再会の印みたいだった。