第10章 翼の約束
窓の外を、景色がすごい速さで流れていく。
都市のビル群を抜け、田園地帯に差しかかると、光が柔らかくなった。
新幹線の中は静かで、走行音が心地よいリズムになっている。
私は背もたれに体を預けながら、静かに息を吐いた。
『……』
となりの席では常闇くんが、目を閉じて黙って座っている。
何かを考えているような、眠っているような。
声をかけるには、少しもったいないような沈黙。
だから私は、そっとまぶたを閉じた。
そして――ふいに、今朝の夢を思い出す。
高台。古い電波塔。泣いていた私の前に降り立った、赤い翼の少年。
(……本当に、夢だったのかな)
あのまなざし。
あの声。
そして、最後に言ったあの言葉。
「きっとまた会えるよ。君が、ちゃんと笑えるようになったら」
(……ホークスだったんじゃないかな)
確信に近い何かが、胸の奥に残っていた。
そして今、私はその“また”の続きを見つけに行く。
窓の向こうに、遠く福岡の街が近づいてきた。
『……行こう』
思わず、声が漏れた。
常闇くんが、ふと目を開けてこちらを見やる。
「……どうかしたか?」
『ううん、なんでもない。ただ……ちょっとだけ、懐かしい気がしただけ』
「……そうか」
それきり、また沈黙。
でも今度は、ちょっとだけ優しい空気が流れていた。
福岡。
私が育った場所。
そして、かつて“翼のお兄ちゃん”と出会った場所。
あの翼の続きを、今の私がちゃんと見届けるために。
赤い羽根が導くように、私はまた、あの空へ向かっていく。