• テキストサイズ

【ヒロアカ】re:Hero

第9章 名前に込めた想い


シンクに立ち、湯気の立つ食器をひとつひとつ洗いながら、
私はなんだかずっと、胸の奥がぽかぽかしている気がした。

『……はぁ、やっぱり人と食べるご飯って、ちょっと特別かも』

そうつぶやいた瞬間、背後にふわりと気配が近づいてきた。

「……想花」

振り返る前に、腕がそっと回り込む。
焦凍の体温が、静かに背中に触れた。

『……どうしたの、急に』

「……ここに、いていい?」

静かに、だけど確かに心を揺らす声だった。

思わず息を呑んで、泡まみれの手を止める。

『……もちろん』

振り返って微笑んだとき、
焦凍の表情が、少しだけ緩んだ気がした。

目が合う。
でも、どちらからともなく、すぐに視線が落ちて──

唇が、触れるか触れないかの距離で止まる。

『……焦凍』

「……」

彼の手が、私の頬にそっと添えられた。

胸の奥に、言葉じゃない何かが、溢れそうになる。

だけどそのとき──
外の窓から、雷鳴のような音が響いた。

びくっとして、ふたり同時に外を見た。

土砂降り。いつの間にか、空は本気で泣いていた。

『……雨、すごいね』

「……初めて、この家に来た日みたいだな」

彼の言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。

『……あの日も、こんなふうに、帰れなくなって……一緒に眠ったよね』

「……忘れてない」

短くそう言った彼の横顔は、どこか懐かしげで、切なくて。
私たちのあの“最初の夜”が、ゆっくりと蘇っていくようだった。
/ 664ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp