• テキストサイズ

【ヒロアカ】re:Hero

第9章 名前に込めた想い


雨は止むどころか、ますます本気を出して降ってきていた。

『……ねえ、そろそろお腹すかない?』

ぽつりとつぶやいた私に、焦凍は一瞬きょとんと目を瞬かせる。
けれど、すぐにこくんと静かに頷いた。

「……確かに少し、すいたな」

『じゃあ、何か作るね』

そう言ってキッチンに立つ私の背中を、焦凍は黙って見ていた。
というより、じっと見つめすぎてる。

ちらりと視線を感じて振り向くと――

「……何か手伝おうか?」

『ううん、大丈夫。ちょっと待ってて』

そう言うと、焦凍は「……そう」と言いながらも、
リビングのソファに座ったまま、なぜかそわそわと落ち着かない様子だった。

視線はたびたびキッチンの方に向いて、
時折、テーブルの上のコップを意味もなく指で回してみたり、
なんでもない風を装ってはいるけれど、彼の目はあきらかにこちらを追っていた。

――あれ?なんか、かわいいかも。

そう思いながら野菜を切っていると、焦凍がふと呟いた。

「……想花って、こうやって人のためにご飯作るの、慣れてるのか?」

『え? ううん、そんなことないよ? でも……たまにこういうの、落ち着くんだよね』

「……そっか」

その言葉に、焦凍は静かに目を伏せた。
まるで、どこか遠い過去を見つめるように。

「俺、あんまりこういう……“普通のご飯の時間”って、なかったから。だから……」

少しだけためらって、でもちゃんと顔を上げて、
「……ちょっとだけ、うれしい」と、ぽそっと付け加えた。

私は笑って、菜箸を置く。

『じゃあ、もっとちゃんと作らないとね』

「……うん」

雨音の中、さりげなく交わされる言葉たち。
でもそこには、確かな温度があった。

そして――
炊けたごはんの香りと一緒に、
何かやわらかな感情が、部屋にふわっと広がっていった。
/ 664ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp