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【ヒロアカ】re:Hero

第9章 名前に込めた想い


雨の音がだんだん強くなって、
窓の外がにじむようにぼやけていく。

『……わ、結構降ってきたね』

焦凍がカーテンをそっと開けて、外の景色を見つめる。
雲は厚く、もうしばらく止む気配はなさそうだった。

「……なんか、初めてここに来た日、思い出すな」

『えっ』

思わず顔を上げる。
彼は外を見たまま、ぽつりと続けた。

「想花の家に、初めて来たあの日。帰ろうとしたら、急に雨が降ってきてさ」

『……うん。そうだったね。』

「……で、話してるうちに、いつの間にか寝ちゃってた」

ふふっと、懐かしそうに笑う彼の横顔に、
私も自然と笑っていた。

『……あの日は、ほんとに、なんだか夢みたいだったな』

「あの日と……今日と。……どっちも、俺にとっては特別かも」

ふたりの間に、少しの沈黙。

でもその静けさは心地よくて、
まるでこの雨音さえも、ふたりを包むためにあるみたいだった。

焦凍がカーテンの隙間からそっと手を離す。
雨はまだ止む気配もなく、静かに、でも確かに降り続いていた。

彼はそのまま、私の隣に腰を下ろす。
さっきまでよりも、ほんの少しだけ近くに。

「……今日も、帰れないかもな」

ぽつりと、そんなことを言いながらも、
どこか安心したように笑う彼の表情が、やけにやわらかかった。

『……だったら、いいよ。もう少し、いて』

小さく呟いたその言葉に、彼がふと目を見開いた。
でも、すぐに――

「……うん。じゃあ、もうちょっとだけ」

今度は、ちゃんと目を合わせて、答えてくれた。

窓の外では、雨がリズムを刻んでいる。
あの日と同じ、優しくて切ない音。

でも、今日は違う。
今日は――もう少し、心を近づけてみてもいい気がした。

彼の隣にいる、この静かな時間が。
胸の奥で、あたたかく灯るような気がした。
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