第9章 名前に込めた想い
教室の扉を開けた瞬間、何人かの視線が一斉にこちらへ向いた。
『……?』
特に何か言ったわけじゃないのに、空気がなんとなくざわついてる。
「ちょっとちょっと、想花〜! 何だったの!? 呼び出しって!」
耳郎ちゃんが早速、興味津々で身を乗り出してきた。
「まさか……問題とかじゃねぇよな!?」
「えっ!?さっきのプリント、出し忘れたとか!?」
『ち、違うから!?』
慌てて手を振る私に、三奈ちゃんがにやっと笑いかける。
「え〜じゃあなに? なんか大事な話? 実はスカウトとかされたんじゃない〜?」
『……あ、うん。インターンのことで。』
「やっぱりかーっ!体育祭のときの活躍、すっごかったもんね!」
上鳴くんが嬉しそうに言ってくれて、切島くんも「すげーなあ!」と笑ってくれる。
轟くんは、静かに私の方を見ながら「……そうか」とだけ言った。
けどその瞳の奥には、何かを探るような、そんな色が浮かんでいて。
そして、斜め後ろの席から――
「……どこの事務所だ」
低く響いた声に、思わず振り返る。
勝己が、肘をつきながらこちらを見ていた。
ただの質問なのに、その声には、ほんの少しだけ、何かが滲んでる気がした。
『……ホークス、の事務所。そこに行こうかなって』
その名を口にした瞬間、近くの数人が「ええっ!?」と声を上げる。
「ホークスって、あの!?」
「うっわ、さすがじゃん!!」
「指名きたの!?」
『う、うん……ちょっとだけ、前に会って……』
詳しくは言わないままごまかすと、三奈ちゃんと耳郎ちゃんが顔を見合わせてニヤニヤしはじめる。
「えぇ〜〜!? なんかあるじゃ〜ん!?」
「ちょっと待って、それってフラグじゃない〜〜!?」
『な、ないから!!』
そう叫ぶと、後ろの席で勝己が「……うるせぇ」って小さく舌打ちしたのが聞こえた。
(なんか、また怒ってる……?)
ほんのちょっとだけ、気になって――
だけどそれ以上は聞けないまま、私は自分の席にそっと腰を下ろした。
窓から差し込む光が、ノートの隅を照らしていた。
次に進む扉は、もう開かれている。
あとは、自分が――どう歩いていくか、だけ。