第9章 名前に込めた想い
想花side
昼休みが終わるチャイムが鳴って、私はそそくさと教室へ戻った。
『ふぅ……間に合った……』
ドアを開けて中に入ると──
一瞬で、視線が集まった。
「……え?」
数秒、時が止まった気がした。
みんなが一斉にこっちを見てる。
しかも、なんだか……やたらニヤついてる!?
『な、なに……?なんかついてる!?』
慌てて制服の裾や頬を触ってみるけど、特に変なところは見当たらない。
「ちょっと〜〜、想花〜〜……?」
一番最初に前の席から振り向いてきたのは耳郎ちゃん。
その横で三奈ちゃんも身を乗り出すようにして、ニヤリと笑う。
「昼休み……呼び出されてたよねぇ?」
『……へ?』
「ねぇねぇ、なんかあったの?何話してたの?」
「告白されたんじゃないの〜〜?」
わっ、と周りが湧き立つ。
「やっぱり!?やっぱりそうだよな!?」
「相手誰?先輩だよね?イケメンだったよな〜!」
「A組じゃなくて、外から来た人とか、ずりぃ〜!」
『ちょ、ちょっと待って!?な、なにその情報!?どこからっ……』
「どこからって、学食で見てたし〜〜?」
三奈ちゃんが満面の笑みで答えると、耳郎ちゃんと上鳴くんが「うんうん」と何度も頷いてる。
「……A組の昼休み、油断ならねぇな……」
近くの席で切島くんが苦笑してた。
『もうっ……そんなんじゃないってば!』
笑いながら両手をぶんぶん振るけど、ニヤニヤの波は止まらない。
「でも〜〜、顔赤いし?なんかうれしそう〜〜?」
「はいはい、いい報告あったら、あとで教えてもらお〜っと」
そんな中、いつも通りの表情で教科書を開くのは轟くん。
けど……耳が、ちょっとだけ赤い気がするのは、気のせいかな?
そして最後列──
窓の外を見ている勝己は、こっちをまったく見ようとしない。
けど、教室に入った瞬間から、なぜか背中がびしびし痛いくらいに感じてた。
『……なんか、今日、疲れそう……』
思わずそうつぶやいて、自分の席にどさっと腰を下ろした。
そして、午後の授業が始まる。
何もなかったはずの昼休みが、ちょっとだけ特別に感じる午後だった。