第9章 名前に込めた想い
A組side
「……本当に、B組と食ってるな」
昼休みの食堂。
いつものテーブルにトレイを置いた瀬呂が、ふと向こうを見やってぽつりと呟く。
「まぁ、今朝から“今日は約束してるんだ〜”とか言ってたしな」
切島が肩をすくめて笑うと、芦戸が身を乗り出すように視線を追った。
「うわっ、あれ見て見て!物間、ちゃっかり隣座ってんじゃん〜〜」
「……めっちゃ距離近くない?」
耳郎が思わず眉をひそめる。
視線の先。
窓際のテーブルでは、想花がB組の仲間たちに囲まれて、屈託なく笑っていた。
まるで、ずっと前からそこにいたかのように自然で、
楽しそうで、
幸せそうで──
「……チッ」
突然、背後から小さな舌打ちが聞こえた。
「爆豪、それ、舌打ち聞こえてるよ?」
「……してねぇ」
「いや、してたし」
「してねぇって言ってんだろ」
ぶっきらぼうな返しと同時に、爆豪はトレイの味噌汁をひと口すすった。
でもその顔は明らかに不機嫌で。
「なに〜? やきもち焼いてるわけ〜?」
芦戸がにやにやしながら聞くと、切島が「それだ!」と笑いながら爆豪の背を叩く。
「おまえらマジでぶっ飛ばすぞ」
そう言いながらも、箸の動きが微かに鈍る。
「でもさ〜、あんなふうに笑ってるの見ると、ちょっと安心するよね?」
耳郎がぽつりとつぶやいた声に、爆豪の手がぴたりと止まる。
そのまま何気ないふりをして──
ほんの少しだけ、窓際の彼女へと目を向ける。
その笑顔を、誰よりも知っていて。
けれど、今はそこに触れられない距離があって。
手を伸ばせば届きそうなのに、なぜか胸の奥がざわつくような感覚。
その表情は不器用で、無口で、でも確かに何かを想っている。
だからこそ、周りの仲間たちは──
(やっぱりコイツ、わかりやすいな)
そう言いたげに、にやにやと視線を送り続けるのだった。