第9章 名前に込めた想い
チャイムが鳴った瞬間、教室の空気がふわっとほどけた。
椅子が引かれる音、談笑の声、カバンを閉めるジッパーの音。
いつものお昼休みが始まる。
「想花〜、今日の学食行こ行こ〜!」
三奈ちゃんがパタパタと駆け寄ってくる。
そのあとを耳郎ちゃんや上鳴くんがぞろぞろついてきて、自然と囲まれる。
『あ、ごめん。今日はちょっと、別で約束してるんだ』
「え、誰と〜?」
「まさか男子!?また爆豪!?」
「ちょ、まさかデートとか言わないでよ〜!?」
みんながわちゃわちゃ騒ぎ出したそのとき、廊下の向こうから足音が近づいてきた。
「──想花〜!来たぞ〜〜っ!」
教室の扉がガラッと開いて、拳藤一佳ちゃんが元気に顔を出す。
続いて鉄哲くんと回原くん、そして物間くんがどや顔で入ってきた。
「今日は我らB組と、昼食のお約束があるのです!!」
「おうおう、ちゃんと席取ってあるぜ!」
「回原、例のアレ持ってきた?」
「バッチリ〜!あとはもう楽しむだけっしょ!」
突然のB組の登場に、A組が固まる。
「……え、ちょっと待って、今の誰?」
「え!?拳藤さん!?物間くん!?え、B組!?」
「っていうかなんで!?仲良すぎじゃね!?いつの間に!?」
『あはは、ちょっと昨日ね。遊んだの。すごく良い人たちだったから』
驚きとざわめきの中、物間くんがくるっと上鳴くんの方を見てウィンクを飛ばす。
「A組の皆さん、お昼のヒロインは今日、我々がいただきますので☆」
「ちょっ……!なにアイツ!!ムカつくんだけど!!」
「それじゃ、行こっか!」
拳藤ちゃんが私の肩をぽんっと叩いて、笑顔を向ける。
私はA組のみんなに手を振って、B組メンバーに囲まれながら教室を出ていく。
扉が閉まるその直前、
耳郎ちゃんがぽつりとつぶやいた。
「……マジで、いつの間に仲良くなってんの?」
その声に、みんな一斉にうんうんとうなずいたけど──
私の胸の中には、ただぽかぽかした何かが広がってた。
(ふふ、なんか……こういうのも、悪くないかも)