第9章 名前に込めた想い
「漆黒ヒーロー、ツクヨミ」
「チャージズマ!!」
「え〜、私は“ピンキー”で♡」
教壇の前で、次々にヒーロー名が発表されていく。
個性の色が滲んだその名に、みんなの歓声がわく。
笑いが起きたり、「それいいじゃん!」なんて盛り上がったり。
この時間だけは、少しだけ将来を夢見てもいいような、そんな空気が漂っていた。
私は机の上で手を組んだまま、静かにその流れを見つめていた。
(……私も、そろそろ、言わなきゃ)
みんなに比べて、少しだけ発表が遅くなったのは、名前に迷っていたからじゃない。
ただ、言葉にするには、ほんの少しだけ勇気がいった。
だってそれは──
私の全部を背負う名前になるから。
「じゃあ次……星野想花」
呼ばれた瞬間、心臓がひとつ跳ねた。
ゆっくり立ち上がると、クラス中の視線が集まる。
(みんな、見てる)
深呼吸をひとつ。視線をまっすぐに前へ向けて──
『……“ウィルフォース”。そう名乗ります』
その言葉を置いた瞬間、一瞬だけ静まり返る教室。
「ウィルフォース……?」
「“意志の力”って意味、かな……?」
耳郎ちゃんがぽつりと呟き、緑谷くんが目を丸くして「かっこいい……!」と声を漏らした。
『私は、これから先……たとえどんなことがあっても。
自分の意志で、ちゃんと進んでいきたい。誰かの希望になれるような──そんなヒーローになりたいから』
ほんの少しだけ、声が震えていたかもしれない。
でも。
私はちゃんと、胸を張っていた。
「いいじゃん……!」
「“意志の力”かぁ……まさに想花って感じ」
「──フン、らしいな」
後ろの方から、勝己の声が小さく聞こえた。
その口元は、なんだか……ちょっとだけ笑ってた気がする。
私は席に戻って、椅子に腰を下ろす。
(……よかった)
心のどこかで、ずっと怖かった。
誰かにどう思われるかとか、変な名前だって笑われるんじゃないかとか。
でもいま、こうして笑い声に包まれながら、自分の名前を胸に抱けるこの時間が──
きっと、この先ずっと私を支えてくれる。
(ウィルフォース。……これが、もう一人の私だ)