第9章 名前に込めた想い
教室の時計が、ちょうど朝のチャイムを告げた。
ガラリと引かれる扉の音に、ざわついていた空気がすっと引き締まる。
「静かにしろ、お前ら」
相澤先生の低い声。
その瞬間、誰もが自然と背筋を伸ばしていた。
(……先生…いつも通りだなぁ)
小さく息をついて、私は机の上のペンを指先で転がす。
「昨日の体育祭の影響で、いくつか仕事が回ってきている。
まずは──プロヒーローからのインターン指名数を発表する」
えっ、と教室中に息が走る。
緊張と期待が混ざったような視線が、一斉に前を向いた。
「一番多かったのは……星野想花。指名件数は、6532件」
『……え?』
その数字が耳に届いた瞬間、息が止まった。
周囲から「まじ!?」「桁おかしくね!?」とどよめきが上がる。
私はただ、呆然としたまま固まっていた。
『ろくせん……?そんなに……?』
緑谷くんが「すごいよ、星野さん……!」と真っ直ぐな目で言ってくれて、三奈ちゃんや耳郎ちゃんも「やっぱヒロイン枠じゃん!」「あれだけ活躍したら当然だよね」って笑ってくれた。
(……うん、ありがたい。でも、まだ実感がない)
背後から聞こえた舌打ちに振り向くと、勝己が腕を組んでじっと前を睨んでいた。
『あ……』
悔しさが滲むその目に、ほんの少しだけ、誇らしさも混ざって見えた。
(……もう、なによ〜)
心のどこかが、ちくりとした。
次に発表されたのは轟くん、そのあとに勝己、飯田くん。
みんなすごい。みんな、それぞれの強さで認められてる。
──それが嬉しくて、でもちょっとだけ、寂しい。
そのまま発表が一巡した頃。
相澤先生がふたたび、私たちを見回す。
「次は……ヒーロー名だ」
教室の空気がピリリと張り詰めた。
(ヒーロー……名)
自分が、どんなヒーローになりたいのか。
その“意思”を、たったひとつの言葉に込める時間。
プレゼント・マイクが勢いよく乱入して、にこやかに叫んだ。
「さあ!未来のヒーローたちの名乗りターイム!SHOW TIMEだぜ!!」
『……いよいよだ』
名前を決めるだけ。
──でも、それは私というヒーローの“核”になる。
静かに、手のひらの中が熱くなっていくのを感じていた。