第9章 名前に込めた想い
朝の校門をくぐって、いつもの道を歩く。
陽射しがじんわり肌に触れて、少し汗ばむくらいの気温。
制服の上着を腕にかけて歩く生徒の姿もちらほら見える。
『……もう初夏なんだなぁ』
そんなことを思いながら下駄箱を開けると、ちょうど反対側の列から誰かが駆け寄ってきた。
「おーい、想花!」
『あ、拳藤ちゃん!おはよ!』
「元気じゃ〜ん。ね、今日さ、お昼一緒しない?」
『えっ、いいの?むしろ私でいいの……?』
「何言ってんの、昨日あんだけプリクラ撮っといてさ〜!」
後ろから鉄哲くんと回原くんもやってきて、
「チュロスもう一回リベンジしよーぜ!昨日のマジで速攻でなくなったし!」
「それお昼関係ないじゃん。食堂にチュロスなんかねーだろ」
と、いつものテンポでつつき合いながら笑ってくる。
それに続いて物間くんが、ちょっとだけ口元をニヤつかせながら言った。
「君がこっちの席でご飯食べたら、1-Aの誰かさんが不機嫌になっちゃったりしてねぇ〜〜? ふふ、面白そうだなぁ〜」
『なっ……そ、そんなことないってば!?』
「ま、爆豪のやつ顔には出すけど何も言わなさそ〜」
「いや……言うな、たぶん」
「……ちょっと見てみたいかも」
『あんたたち〜〜〜!?』
笑いながら歩いていくと、自然と心が軽くなる。
昨日まで“よそ行き”だった距離感が、少しずつ“本当の仲間”になってきてる気がした。
***
教室に入ると、もうみんながわいわい騒いでいた。
「想花〜!おはよー!」
「今日さ、ヒーロー名ってほんとに発表あんのかな?」
「名前ってむずいよね〜〜!」
席について鞄を下ろすと、隣から爆豪くんがちらっとこっちを見る。
「……よ」
『おはよ、勝己』
その一瞬――空気が、止まった。
「……え?」
「今、“勝己”って……!?」
「え、呼び捨て!?あれ!?爆豪ってさっき“よ”って……え、ふたり、えっ!?」
「いやいやいや!!え、え、なんか聞いた!?今なんか聞いたよね!?」
『ちょ、みんな落ち着いて!?!』
騒ぎの火種にしかならないその一言に、慌てて手を振る私。
でも当の本人はというと、肘を机について、完全にそっぽ向いたまま。
……ただ、耳の先がちょっとだけ、赤い。
やっぱり、今日もいい日になりそう。