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【ヒロアカ】re:Hero

第8章 優しい休日


夜風が、アパートの前の階段をすり抜けていく。
足元のコンクリが、まだ少しだけ昼間の熱を残していた。

『……ここ、だから』

階段を上って、私の部屋の前。
私はポーチを探りながら、ちらりと隣を歩いてきた爆豪くんを見る。

彼は、何も言わずにただそこに立っていた。
玄関の灯りに照らされるその横顔は、いつもより静かで。

(……今日は、ほんとに、いろんなことがあったな)

鍵を回して、カチャリと音を立てる。
扉の隙間から、ほんのり漂う自分の部屋の匂い。

――そのときだった。

私は、なぜか立ち止まって、
開けかけたドアの前で、ふと振り返る。

『……ねぇ、勝己』

彼がぴくりと顔を上げる。

『……今日は、ありがと。すごく、嬉しかった』

笑って言った、その瞬間だった。

「……ッッ」

低く息を呑む音。
そして次の瞬間、
背後から伸びた腕が、ドアを思いきり押し開いた。

『えっ――きゃっ』

「……もう、ムリ」

爆豪くんの低い声。
有無を言わせず私の背中をそっと押して、
そのまま部屋の中へ――ドアの内側へ、連れ込まれる。

「……その顔で“勝己”とか言ってんじゃねぇよ」

バタン、と扉が閉まり、
空気が一気に静まり返る。

そのなかで、彼の手が私の頬に触れた。

「……可愛くなりすぎだろ、バカ」

その声が、近い。
熱も、吐息も、全身を包み込むように。

『か、つき……』

「……覚悟しとけよ。
もう外じゃ我慢してやったんだ。ここからは――」

ぐい、と引き寄せられた瞬間、
唇が重なる。さっきよりも、もっと深く、もっと熱く。
まるで、理性を全部手放したみたいに。

荒い呼吸。
私の腰に回された腕が、ぎゅっときつくなる。

「……もう誰にも見せんな、今日みてぇな顔。
ぜんぶ、俺だけのもんにしろ」

ベッドの影が、ゆらりと揺れる。

今夜だけは――
もう、抑えきれないみたいだった。
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