第8章 優しい休日
「ねえねえ……そういえばさ」
ふと、誰かがぽつりと呟いた。
「星野ってさ……いまの、その姿が“本当の”顔、なんだよね?」
『えっ? あ、うん。そうだよ』
『今まではちょっとだけ、個性で変えてただけ。髪色とか、目元の雰囲気とか……ね』
「うっそー! でもさ、めっちゃ雰囲気違ったよ!?もう別人レベルって感じだったもん!」
「てことはさ、星野って……もしかして、他の人そっくりに変身できたりする!?」
「え〜!それ見たい見たい!!誰かやってよ〜!」
『えぇぇ〜〜!?でも知ってる人じゃないと、クセとか喋り方とか難しいんだよ!?』
「じゃあさ、クラスメイト限定で!!」
「やってやって〜!!」
「サービス!サービス〜!!」
わーっと盛り上がる声に、私は苦笑しつつ立ち上がった。
『じゃあ、ちょっとだけね?』
ぱちんっと指を鳴らすと、髪がふわっと揺れ、体格や顔つきが変化していく。
「……『やぁ♡ みんな今日も可愛いねぇ〜!』」
「うわっ!!それ上鳴じゃん!口調まんま!!」
「え、似すぎ〜〜〜!!声まで同じとか、すごっ!?」
『うふふ、じゃあ次はぁ〜……』
姿がすらっと高くなり、きゅっと口元が引き締まる。
『「あんまり騒ぐと、先生に怒られるぞ」』
「わあ!それ真面目な飯田くん!立ち姿がガチすぎ!!」
「てか何気に演技力すごくない!?」
「次!次〜!!」
そして数人、クラスメイトを次々と演じたあと──
私はくるりとくるくる回って、最後にふっと静かに目を伏せる。
髪がツンツンと逆立ち、瞳が鋭くなり、腕を組んだ姿勢のまま。
『……てめぇら、うっせーんだよ』
一瞬、部屋が凍りついた。
「え、まって……」
「それ、まさか……」
「爆豪くん!!?」
がたん、とソファにいた本人が立ち上がった瞬間──
『「調子乗んなっつってんだろクソ髪ィ!!」』
「爆豪じゃねぇか!!」
「腹筋死ぬww爆豪のモノマネで一番似てるwww」
「ぐはっ、涙出てきたっ!!」
大爆笑の渦の中、私はケラケラ笑いながら元の姿に戻る。
そのとき、視線の端に映ったのは──
壁際で腕を組んだまま、どこか照れくさそうに視線を逸らしてる爆豪の姿。
『あ、本人いた』
「……オイ、調子乗んなよ」
ボソッと呟いた彼の耳は、ほんのり赤く染まっていた。