第8章 優しい休日
カラオケのお部屋side
「ねえねえ、これってさぁ……まさかの“爆豪くん告白チャンス”ってやつじゃない?」
芦戸がにやりと笑いながら、テーブルに肘をつく。
その一言に、上鳴が「うわーっマジかぁ!」と声を上げ、峰田は嬉々として鼻を鳴らした。
「ってか芦戸、今の絶対わざとだよな……」
瀬呂がジュースのストローをくるくる回しながら、苦笑する。
その隣で、尾白と砂藤も無言でうなずいていた。まるで、今の流れが予定調和だったかのように。
「……まあ、たしかに……」
ぽつりと呟いたのは、切島だった。
いつもより少しだけ低い声。
さっきまで浮かべていた笑顔の奥に、どこか影がさしているのを、芦戸はすぐに察した。
「切島?」
「……いや、なんでもねぇよ」
そう言って笑ってみせた彼の目は、けれどどこか遠い。
視線の先にはもういない――部屋を出て行った、あの二人の背中を、まだ追いかけているようだった。
「あーもう!わかりやすすぎるんですけど〜!男子ってほんと!」
芦戸が頬をふくらませると、女子たちの視線が一斉に切島へと向かう。
「え、もしかして切島も……」
「いやいや、まさか、ねぇ?」
「でも、あの時めっちゃ守ってたよ?」
「はっ!?ちょ、お前ら何の話してんだよ!?やめろって!!///」
耳まで真っ赤にして、慌てて手を振る切島。
その様子に、部屋中がどっと笑いに包まれた。
「ま、どっちにしても、恋のライバル多すぎってことだよね〜!」
「爆豪? 轟? 切島?」
名前が次々に飛び交っていく。
誰もが冗談のように笑っていたけれど、
その心のどこかでは、きっと誰もがほんの少しだけ本気だった。
――あの子が、誰を選ぶのか。
それを知るのが、ちょっとだけ怖くて。
だけどやっぱり、ちょっとだけ楽しみでもあった。