第8章 優しい休日
「じゃーんっ!この曲ぴったりでしょ〜!爆豪くん歌って〜♡」
「はぁ!?誰がやるか、ボケが!!」
マイクを手に押しつけられてるのは、爆豪くん。
上鳴くんがノリで入れた、あからさまな“恋愛ソング”。
画面に流れる歌詞を見て、部屋は一瞬で大爆笑の渦に包まれた。
「ちょ、かっちゃんマイク持って!曲始まっちゃうって!」
「サビ超高ぇやつ!行けるっしょ爆豪!」
「お前ら全員ぶっ飛ばすぞ」
……いつもの爆豪くんなら、マジでキレて帰ってる。
なのに今日は――私のほうをちらっと見て、ものすごく不服そうに、でも舌打ちひとつだけで済ませた。
『……』
思わず、肩をすくめて笑ってしまった。
なんだろう、ちょっとだけ……かわいいって、思ってしまった。
「やっぱ爆豪くんと想花っていい感じなんじゃね?」
「いやいや、そう見えてるのあんたたちだけだって〜」
女子たちのわちゃわちゃを背中に感じながら、
三奈ちゃんが、にやにやと私の耳元に顔を寄せてくる。
「ねぇねぇ、ちょっとあのドリンクバー行ってきてくれない?」
『え、なんで私?』
「いーからいーから♡ ちょっと、私も水飲みたいしさ〜?」
『……怪しいんだけど』
首を傾げながらも、仕方なく立ち上がったその時――
「おーい爆豪〜!想花ちゃん、飲みもん取りに行ったぞ〜!」
「は!?なんで俺が……」
「いいから付き合えよ!こっち来い!」
切島くんが、笑いながら爆豪くんの背中を押していた。
何が何だかわからないまま、彼も私のあとを追うように部屋を出る。
『え……なんで爆豪くんが?』
「偶然偶然♡」
三奈ちゃんは、小声でウィンクをひとつ。
その瞬間、部屋の空気がふっと変わった気がした。
誰もなにも言わない。
でも、ポテトをつまむふりをしながら、ストローを咥えながら――
全員が、どこかちょっとだけ笑って、
うっすら赤くなっている私の背中を見送っていた。