第8章 優しい休日
「で、で……でもさ、別に正式に付き合うって言われたわけじゃないし……っ」
『冗談だったんじゃないかなって、その……思ってて……』
しどろもどろになりながら必死に弁解する私を、女子たちは容赦なく笑顔で囲い込んでくる。
「いやいや、それで済ませる気〜?♡」
「想花ちゃん、爆豪くんと仲良いもんね〜?最近、よくふたりで話してるとこ見かけるし」
「てかさ、あの爆豪くんが想花ちゃんだけ呼び捨てって、ちょっと特別っぽくない?」
『えっ……そんなことないってば……!』
なのに、言葉とは裏腹に、顔がじわじわと熱くなっていくのがわかった。
どうして私は、こうもわかりやすいんだろう。
平然を装いたいのに、こういうときに限って、気持ちは全部、表に出てしまう。
そんな空気を破るように、別の子が声を上げた。
「じゃあ、じゃあさ!ぶっちゃけ今、クラスの男子で一番気になってる人って誰!?」
「爆豪は置いといて!他にも、いるんじゃないの〜?」
「え、それって……たとえば轟くんとか?」
その名前が出た瞬間、体がぴくりと反応してしまった。
……なんで、そこでその名前?
『……と、とどろきくん?』
「そうそう!結構ふたり絡み多いよね〜!ヒーロー基礎学とか、今回の体育祭とかさ」
「ていうか、轟くんが想花ちゃんを見るときの目、めちゃくちゃ優しいよね?」
「わかる〜!なんか、静かに想ってる感じ?ほら、トーナメントのときも、明らかに焦ってたし!」
『そ、そんなことないよ……』
視線を落としたまま呟いた私に、すかさず誰かが声を上げる。
「えっ、それ否定になってないやつじゃん!」
「ぎゃーー!!まさかの両想い候補がふたり!?どっち選ぶの〜!?!?」
笑い声と歓声が飛び交って、空気は一気に熱を帯びていく。
お菓子もジュースも置きっぱなし。
もはやここは“私を囲む恋バナ会”だった。
心臓が、うるさいくらいに鳴ってる。
頬も、耳も、たぶん真っ赤。
なのに私は──
『……あはは……逃げたい』
ぽつりと漏れた声は、自分でも気づくくらい、小さく震えていた。