第7章 君に負けたくない
ホークスside
静まりかえった会場の片隅で、
三段目の表彰台に立つ少女を、オレは遠くから見つめていた。
小柄な身体。風をはらむような柔らかな動き。
疲労の色を浮かべながらも、誇りを失わないその姿勢。
(まさか……ほんとにあの時の……)
ほんの数秒、視界が滲んだ気がした。
――あの日の高台。
ひとり、翼を震わせながら空を見上げていた、ちいさな女の子。
「……っぐ……っ……かあさ……と……っ……」
声にならない声で泣きじゃくってた。
祖母の手をすり抜けて、何度もそこに来て。
ボロボロのスニーカーのまま、冷たい風に晒されながら――
ただ、空に向かって叫んでいた。
助けて、って顔だった。
だけどオレは何もできなかった。
まだ弱くて、子どもで、ただ背中の羽根を広げて見つめるしかなかった。
それでも……彼女は、毎回、オレを見つけると少しだけ泣き止んだ。
一言も喋らなくても、そこにオレがいたこと、覚えてくれてた気がした。
……あの子が今、ヒーローを目指してるなんて。
きっと本人は、もうオレのことなんか覚えてないんだろうけど。
(それでもオレは、ちゃんと覚えてる)
あの時、
泣き虫だったお前が、空を睨んで立ってた背中が――
オレを、ヒーローにしたんだよ。