第7章 君に負けたくない
午後の陽射しが、スタジアムの中央を黄金色に染めていた。
観客席にはまだ熱気と興奮の余韻が残り、ヒーロー候補生たちの視線が、中央に立つ三人に注がれていた。
──表彰台。
一位:爆豪勝己(全力で抵抗したため拘束中)
二位:轟焦凍
三位:星野想花
私は、三段目に立っていた。
ひどく疲れていたけど、心は不思議と静かだった。
『……ほんとに、ここまで来ちゃったんだ』
夢みたいだった。
オールマイトがゆっくりと歩み寄ってくる。まずは一位──爆豪のもとへ。
「勝者、爆豪勝己ァ!!」
けれど爆豪は、腕を縛られ、猿ぐつわをかまされていて。
「ムゥゥ~~~ッ!!!(離せコラァァア!!)」
『いやもう色々おかしいからね!?!?』
「彼は表彰式の拒否を強行しようとしてね、やむを得ずこのような処置に……」
オールマイトは満面の笑顔で説明したが、どう見てもフォローになっていなかった。
次にオールマイトは、静かに二段目へ。
「焦凍少年、おめでとう。君はよく戦った」
「……ありがとうございます」
轟はその声に静かに頷き、銀メダルを受け取る。
その表情は穏やかで、どこか吹っ切れたような顔をしていた。
そして、三段目──私のもとへと。
「そして星野少女。よく、ここまで登りつめたね」
『……はい』
差し出された銅メダルは、思っていたよりもずっとずっしりと重かった。
それは、戦った証。逃げずに立ち向かった日々の、形ある証拠だった。
「君は、素晴らしい戦いを見せてくれた。仲間を思い、力を惜しまず、恐れず進んだ君の姿勢は……まさしくヒーローそのものだ」
彼の穏やかな声が、胸の奥に染みていく。
『……ありがとうございます』
私はそっと、メダルを胸にあてた。
涙なんて、流すつもりじゃなかったのに。少しだけ、目の奥が熱くなる。
「見ろよ〜〜!あの子、やっぱりすげぇや!!」
「星野、マジでかっこよかったぞー!!」
観客席から飛んでくる声。
仲間たちの笑顔が見える。私は思わず、そちらへ手を振った。
――もう、逃げないって決めた。
だからきっと、私はこれからも大丈夫。
胸のメダルは、冷たくて、そしてどこまでもあたたかかった。