第7章 君に負けたくない
想花side
カーテンの隙間から差し込む光が、白い天井をそっと照らしている。
『……ん、……』
意識がゆっくりと戻ってきて、じわりと身体の重みが戻ってくる感覚に包まれた。
薄く目を開けると、包帯が巻かれた腕と点滴のチューブが視界に入った。
ぼんやりと視線を巡らせると、隣の椅子に腕を組んだ相澤先生が静かに座っているのが見えた。
「やっと起きたか。……まったく、お前はほんと手がかかるな」
先生の声は低くて少し呆れたようだったけど、どこか安心した色も混ざっていた。
『……私、負けちゃいましたね……』
小さな声で呟くと、先生は静かに答える。
「負けたことは問題じゃない。お前が本気で勝とうとしたことは、誰よりも分かっている」
その言葉に少しだけ心が軽くなった気がした。けれど、その後の言葉は重かった。
「ただ……緑谷の傷を治したな。お前の“個性”で」
『……それは……』
私は言葉に詰まる。先生の目は鋭く、教師としての責任と、深い“心配”が混じった瞳だった。
「気づいている生徒もいる。教師として、黙っていられない」
「お前の個性は回復系じゃない。あれは……“自分自身を削る”力だ。使い方を誤れば、先に倒れるのはお前だ」
先生の声は冷静だけど、確かな重みがあった。
『……でも、緑谷くんの傷は、あんなに痛そうで……』
必死に言葉を紡ぐ私に、先生はため息をついた。
そして立ち上がり、少しだけカーテンを開けて外の光を取り込む。
「そういう無茶をする奴が、いつか一番先に折れるんだ。次はない。分かったな」
背中は大きく、どこか切なく見えた。
『……はい』
私は静かに頷き、その言葉を胸の奥深くに刻んだ。
あの日の光と、先生の言葉が、いつまでも私の中で響いている。