第7章 君に負けたくない
「さあ、ベスト4の第一試合!A組 星野想花!対するは、轟焦凍!この二人の対決は、熱戦必至だァァ!」
プレゼントマイクの叫びが、まるで戦場の鐘みたいに響いていた。
ざわめく観客の声が、遠くに感じる。私は今、自分の鼓動の音しか聞いていなかった。
もう何度目だろう、限界を越えるのは。
でも――やるしかない。
ホイッスルが鳴る。
静かに顔を上げると、フィールドの向こうで、轟くんがまっすぐに私を見ていた。
その瞳は、冷たい氷じゃなかった。
どこか、火傷するほどの熱を秘めていて――私は思わず、微笑んでしまった。
『……あのときの借り、返すよ』
私の足が地を蹴る。
風が巻き、跳躍と共に空を裂く。
轟くんの氷が迫り、私はそれを飛び越えて、斬るような風を放った。
すぐさま巻き返す彼の氷を地面で受け止め、土の槍を突き上げる。
交差、回避、応酬、そしてまた衝突――
攻防のたびに、視界の隅が滲んでいくのが分かった。
「いやぁ〜これはすごい戦いだァ!氷と風のぶつかり合い、そして星野の土の攻撃も鋭い!まさに“全属性対応型”だァァ!」
熱気に包まれる場内と裏腹に、
私の中は、静かに崩れ始めていた。
膝が軋む。指先が震える。
頭が、少し遠くなる。
それでも、止まれない。
ここまで来たんだ。誰かのためじゃない。
自分のために、私は立っている。
次の瞬間だった。
轟くんの片腕が振り上がり、冷気の奔流が一気に解き放たれる。
『……っ』
かすかな気配に、私は手をかざして防御の構えを取った。
でも、次の瞬間。
まるで、内側で張り詰めていた何かが――ふっと、ほどけた。
足に力が入らない。
視界が揺れ、息が詰まる。
轟くんの目が、大きく見開かれた。
もう、止められない。
真正面から、氷の奔流が襲いかかる。
私は抗うこともできず、そのまま静かに、氷に包まれていった。
──ごめん。
少しだけ、わたしの身体が先に、終わりを迎えただけ。