第7章 君に負けたくない
想花side
試合が終わって、歓声もざわめきも、どこか遠くの世界の音に感じていた。
私は静かに、人の気配が少ない木陰へと足を向ける。
ほんの少しだけ、身体を休めたかった。
まだ大丈夫。そう思いたいけど、足取りは思ったより重かった。
地面にしゃがみ込むと、肺の奥から浅い息が漏れる。
疲労はじわじわと、でも確実に私を蝕んでいて。
(……あと、何試合だっけ)
自分に言い聞かせるように目を閉じた、そのとき。
「……おい」
背後から聞こえた声に、肩が跳ねた。
振り返らなくてもわかる。この声を、私は誰よりも知ってる。
「こんなとこで何やってんだよ、バカ」
乱暴な口調。
でも、言葉の奥に滲む温度は、あまりにも優しくて。
視線を上げた先に立っていた爆豪の目には、明らかに焦りと、少しの怒りがにじんでいた。
(……怒ってる。けど、ほんとは心配してるんだ)
何も言わず、彼は私の隣に腰を下ろす。
そのまま、無言で――自分の膝をぽん、と叩いた。
『……えっ』
戸惑っている間に、強引だけどやさしく、頭を引き寄せられる。
気づいた時には、私は彼の膝の上に、静かに横になっていた。
『……ば、爆豪くん?』
小さく呟いた声は、情けないくらい震えていた。
でも彼は、顔ひとつ動かさず、ぼそっと言った。
「……少し、休んどけ。無理してんの、バレバレだ」
その言葉に、胸がきゅうっと痛んだ。
私がどんなに平気なふりをしても、どんなに笑って立っていても。
彼には、とっくに見抜かれてた。
「お前さ、毎回ギリギリまで踏ん張って、勝手に自分削って……ほんっと、クソがつくほどバカだな」
でもその“バカ”は、怒鳴りじゃなかった。
まるで、溶けるような優しさをにじませて、私のことを責めてくれていた。
(……ほんとは、誰かに言ってほしかったのかも)
“休んでもいいよ”って、“頑張りすぎだ”って。
彼の膝枕は、思ったよりあったかくて。
言葉にできない安心感が、ゆっくり私の胸に染み込んでいく。
私は目を閉じて、そっと息を吐いた。
『……少しだけ、甘えてもいい?』
言葉にしたとたん、心がほどけていく気がした。
「……ったく。もう、勝手にしろよ」
呆れたように吐き捨てながら、彼は静かに私の髪を撫でた。
その優しさに、私の世界がそっと静かに、やさしくなった。