第7章 君に負けたくない
1Aside
観客席では、星野想花と塩崎茨の試合に、1-Aの面々の視線が集中していた。
燃え上がる炎と、焼け焦げるツルのにおい。
それはまるで、誰かの覚悟ごと、全てを焼き切るような――そんな迫力だった。
「……想花ちゃん、やっぱすげぇわ……」
「うん……なんか、もう“安心感”すらあるよね」
「でもさ……あの子、今日ちょっと無理してない……?」
誰かが、ぽつりと呟いた。
そんな言葉が、まるで予感のように空気を震わせた、そのときだった。
「……あれ?」
最初に気づいたのは麗日だった。
視線の先――そこには、席に戻ってくる緑谷の姿。
「デクくん!?」
「えっ、嘘でしょ!?さっき担架で運ばれたのに!?」
「え、回復……早すぎん……?」
周囲がざわつく。
本人は困ったように笑って、
「……なんか、気づいたら治ってて……」
と、あいまいな言葉をこぼした。
「え?リカバリーガール先生じゃないの!?」
「でも、そんな爆速で治るっけ……」
誰もが混乱していた。
でも、ひとりだけ――その答えを、最初から知っている者がいた。
爆豪勝己は、腕を組んだまま黙っていた。
けれど、視線は誰よりも鋭く、静かに前を射抜いていた。
(……あのとき、走ってっただろうが)
星野が保健室へ向かった、あの瞬間を。
その背中を、誰よりも早く見つけて、引き止めに行った自分を。
(俺の言葉、聞かねぇで……)
結局あいつは行った。
そして、癒した。
あの“力”の代償がどれだけでかいか、爆豪は誰よりもわかってる。
だからこそ、目の前で笑う緑谷を見て、悔しかった。
「……チッ、…あのバカ……」
ぽつりと漏らす声には、誰も気づかない。
怒ってるわけじゃない。
ただ、どうしようもなく焦っている。
競技場の中央――
戦いながらも、その背中がほんの一瞬ふらついたのを、爆豪は見逃さなかった。
(……今すぐ行って、ぶん殴ってやりてぇ)
そう思う自分を、ギリギリのところで抑え込む。
(でも――)
もしも今、誰よりも遠くに立って戦ってるあいつの横に行けたら。
(俺の“手”で、あいつの全部、支えられんのか……?)
そう問いかけるように、拳を握りしめた。