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【ヒロアカ】re:Hero

第7章 君に負けたくない


担架で運ばれていく緑谷くんの姿を、私はただ黙って見送っていた。

その腕はひどく腫れ上がり、意識も朦朧としているように見えた。
ここまでしてなお、彼は誰かの“力”を信じて、自分の体を差し出した。

(……放っておけるわけ、ないよ)

私は立ち上がる。
決意が、心に静かに降りてくる。
椅子のきしむ音とともに、足が自然に進んでいた。

そのときだった。

「……どこ行く気だ、オイ」

鋭い声に振り返ると、爆豪くんがいた。
私の手首を、しっかりと掴んでいた。
目はいつもみたいにきつくて、でも、その奥には――ほんの、少しだけ、迷いがあった。

『緑谷くんのところに、行くの』

「……ああ? 今行ったら、お前がまた削れるってわかってんだろ」

彼の声は怒っていた。
でも、それはただの怒りじゃなかった。
ちゃんと私のことを、心配してくれてる声だった。

私の“治癒”の個性は、代償が大きい。

それでも、行かなきゃって思った。

『……それでも助けたい』

爆豪くんの手が、わずかに強くなる。

「ふざけんな……そんなもん、ヒーローでもなんでもねぇ」

『ヒーローって、“誰かを救う人”でしょ? だったら、これが私のやり方』

少しだけ、彼の目が揺れた。

「……お前、それで何回潰れそうになった?」

低く、静かに落とされたその声に、胸がきゅっとなる。

「……しかも治すって、また“アレ”すんだろ? ……今度はあいつに」

爆豪くんが顔を背けた瞬間、かすかに赤くなった頬が目に入った。

――そう。私の治癒の力は"キス"…だと思われてる。
軽い怪我であれば手を翳すだけで治せるけど、
重症の場合はキスで直接私の体力を渡す方が効果が大きい。

『……それでも、行くよ。リカバリーガールの治療じゃ、きっと全部は戻らない』

言い切ると、爆豪くんは少しだけ、言葉を失った。

沈黙が落ちる。
彼の手にわずかに力が入って、そして――緩んだ。

その一瞬を逃さず、私は手を振りほどく。

爆豪くんの前を、駆け出した。

背中に感じる熱は、怒りでも呆れでもなくて。
たぶん――言葉にならない想いだった。

『……ごめん、爆豪くん。私、こういうふうにしか、生きられないから』

心の中でそっと、そう呟いた。

風を切って走る。
目的はひとつだけ。
傷ついた緑谷くんのもとへ――今、私が届けられる“救い”を持って。
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