第7章 君に負けたくない
緑谷くんの叫びが、場内に響いた。
「使えよ!轟くん!!君の力を!!」
その瞬間だった。
轟くんの瞳が見開かれ、氷の奥に隠れていた真紅の炎が立ち上がる。
息を呑む一瞬の静寂――
そして、轟の左手から放たれた爆炎と、緑谷くんの全力の拳が真正面からぶつかり合った。
ゴオォォォォオオオオオオッ!!!
地面がうなり、空気が唸りを上げ、観客席までもが揺れるほどの衝撃。
熱風と爆音が一気に押し寄せてきて、私は思わず立ち上がった。
『……っ!』
その時だった。
私の前に、ふたつの影が飛び込んできた。
「下がってろってんだよ、バカ!」
「お、おい、ヤバそうだろこれ!」
爆豪くんと切島くんだった。
爆豪くんは片手で私の肩を押して、そっと後ろへ避けさせる。
切島くんはその前に仁王立ちになって、強い風から身を張って守ってくれていた。
爆風に煽られながらも、私はふたりの背中の間で、なんとか立ち尽くしていた。
「チッ……ったく。お前はいつも、余計なとこで突っ立ってんだよ……」
『……ご、ごめん』
「はっ、今さら謝るくらいなら最初から動け」
そう言いながらも――
爆豪くんの手のひらから、ごく微かな爆破の風が吹いて、私の頬にあたる熱気をやんわりとそらしてくれていた。
そのさりげなさに、胸が少しだけ熱くなる。
横で、切島くんが拳を握りしめて言った。
「ヒーロー候補生ってのはよ、最後まで諦めずに突っ走る連中ばっかなんだな。……マジで燃えるぜ」
彼の言葉と同時に、爆炎が徐々におさまり、場内の熱が静けさに変わっていく。
舞い上がった砂煙の向こう。
そこに立っていたのは――
氷をまとった右手と、静かな炎を灯した左手を携えた、轟くんの姿だった。
『……やっと、自分の力を、自分の意志で使ったんだね』
誰かのためじゃない。
誰かに抗うためでもない。
彼自身が選び、認めた“轟焦凍”としての力。
胸の奥がじんわり温かくなっていく。
その戦いを目にできたことが、ただ嬉しくて、誇らしくて――
(……ありがとう。ふたりとも)
勝敗なんて関係ない。
そこにあったのは、言葉じゃ言い表せないほど、強くて、まっすぐな光だった。