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【ヒロアカ】re:Hero

第7章 君に負けたくない


【個人トーナメント 第2回戦:緑谷出久 vs 轟焦凍】

試合開始の合図が響いた瞬間、緑谷くんが勢いよく走り出す。
それに応じるように、轟くんは静かに構え、いつものように地面を凍らせた。
冷たい氷が土俵を覆い、まっすぐに迫る緑谷くんを正面から迎え撃つ。

『……違う。轟くん、なにかが……違う』

目の前で繰り広げられる一撃一撃に、胸の奥がざわついた。
“いつもの轟くん”なら、それで十分なはずだった。
氷で封じて、押し返して、淡々と勝利を手にするだけ――そのはずなのに。

緑谷くんは、自分の身体を犠牲にしてまで向かっていく。
それはまるで、彼に何かを伝えようとしているようで。

「これは……試合なんだぞ!!本気でかかってこい!!」

張り裂けそうな叫びが、爆音のようにスタジアム中に響いた。
その瞬間、時間が止まったように静まり返る。

轟くんの瞳が、ほんの少し揺れて見えた。

『……轟くん。あなたはもう、“誰かの力”じゃない。』

そう。
それは、エンデヴァーの力なんかじゃない。
あなただけの力。あなただけの意志。
それに気づいてほしいと願って、緑谷くんは……叫んでいたんだ。

氷の面に包まれていた轟くんの表情が、ふっと動いた気がした。
そして――

轟くんの左手から、熱が吹き上がった。

観客がどよめく。
熱風が舞い上がり、氷と炎が同時に土俵を覆っていく。
それは、彼の中で止まっていたものが、動き出した証だった。

「俺は……ヒーローになる。あんたとは違う形で」

その言葉に、私は息を呑んだ。
ああ、やっと……やっと届いたんだ。

彼はもう、父親に囚われた“兵器”なんかじゃない。
誰かのためでも、誰かの期待でもなく。
“自分自身”のために、その力を使おうとしている。

気づけば私は、立ち上がっていた。

『……やっと……やっとだね』

まるで胸の奥が溶けていくようだった。
張り詰めていた感情がほどけて、目の前の光景がにじんでいく。

(……轟くん、本当に……強くなったね)
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