第3章 ヒーローの初試練
「ねぇねぇ、紗良ちゃんの髪ってすっごくサラサラ〜!なんかケアしてるの?」
お茶子ちゃんの声は、明るくて柔らかくて、まるで太陽みたいだった。
三奈ちゃんもニコニコしながら続ける。
「絶対モテるでしょ!?いやもう、私が惚れそう!」
「ちょっと三奈ちゃん!それ私も言おうとしてた〜!」
私たち女子3人は笑い合い、教室の空気が一気に軽やかになった。
(ああ……こういうの、いいな)
心の奥のどこかがふっと温かくなって、自然と顔が緩んだ。
だけどその穏やかな時間は、教室の引き戸がゆっくりと開く音で一瞬で止まった。
ガララッ
ざわめきが一気に消え、みんなの視線が一斉に入り口に集まる。
そこにずるずると這うように現れたのは、黒い寝袋。
「……まだ浮かれてるやつがいるとはな。……時間だ。席につけ」
重たくて低い声が、教室の空気を凍らせた。
相澤消太――イレイザーヘッド。
寝袋に半分埋もれたその姿を見て、三奈ちゃんは思わず目を丸くした。
お茶子ちゃんも小さく「すごっ…」と声を漏らしている。
私はポカンとしながらも、思わずクスッと笑ってしまった。
『(なんだか…不思議な先生。怖そうだけど、どこか面白いかも……?)』
みんな慌てて席に戻る中、相澤先生は無駄のない動きで寝袋を脱ぎ捨てた。
ボサボサの長髪が揺れ、黒い瞳がこちらをじっと見据えている。
「俺が担任の相澤だ。お前らの“楽しい”学生生活がどうなるかは……これから次第だな」
その言葉が響くと、教室の空気がピンと張りつめていく。
私は深呼吸をして、心の中で小さく覚悟を決めた。
(ここが私の新しい“戦場”なんだって)