第3章 ヒーローの初試練
「今からお前たちには、“個性”を使った体力測定をしてもらう。制服からジャージに着替えて、グラウンドに集合しろ。5分以内だ」
先生は黒板の前で眠そうに目を細めている。
「え!?ジャージに!?5分!?」
「せんせー!入学式は?!」
相澤先生の低くて冷たい声が、教室の空気を一瞬で張り詰めさせた。
ざわざわと緊張が走り、私はほんの少しだけ眉をひそめた。
「入学式?ホームルーム?……そんなもんに意味はない。ヒーロー志望のガキどもが集まってんだ、時間の無駄だろ」
お茶子ちゃんと三奈ちゃんと目が合い、思わず顔を見合わせる。
驚いている暇なんてなかった。みんなが一斉に立ち上がり、更衣室へ走り出す。
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――そして数分後。
グラウンドに全員が整列すると、相澤先生はジャージ姿のまま、冷たい目で私たちをぐるりと見渡した。
試すような鋭い光が、その瞳に宿っている。
「さて――お前たちにやらせるのは、小学校でもやった体力測定だ。反復横跳び、ボール投げ、50メートル走……ただし」
「“個性”を使っていい」
どよっとざわめきが広がる。
「え、マジで……?何でもありってこと……?」
私も驚きを隠せず、先生の言葉に耳を傾けた。
「ヒーローになるなら、基礎体力は必須だ。“個性ありき”でどこまでやれるか、それを測る」
相澤先生の声がぐっと低くなった。
「そして――この中で“最も成績が悪かった者”は、除籍処分とする」
静寂が訪れ、心臓が凍りついた。
(――除籍?)
『それって……本当に?冗談じゃ、ないよね……』
緊張で空気が重くなり、みんなの顔が引き締まった。
入学初日から、いきなりこんな現実を突きつけられるなんて。
相澤先生が一歩、前に出る。
「お前らが“どこまでやれるか”……ちゃんと見せてみろ」
私は深く息を吸い込み、覚悟を決めた。