第7章 君に負けたくない
「さあ来ました!注目の個人トーナメント第1試合!
華麗な個性で空を翔ける謎多き乙女、星野想花!
対するは、機動力のエース、飯田天哉ァァァァッ!!」
鋭いホイッスルが響いた瞬間、飯田くんがエンジン全開で走り出した。
ものすごい速さで地面を蹴る音が、胸にまで響いてくる。
私は、一歩も動かずにその動きを見つめていた。
(……見えた)
一瞬の判断で、私は個性を解放した。
地面がうねり、粘りつくように飯田くんの足元を捕らえる。
「な、なんだこれはああああッ!!」
あの速さが、まるで泥の中に沈むように鈍っていく。
動きが止まると同時に、観客席が一気にざわめいた。
『……ごめんね。私、本気出すって決めたから』
呟いたその瞬間、身体の中に力が満ちていくのを感じた。
筋肉が跳ねるように反応し、私は風のように跳んだ。
その動きのまま、攻撃へと移行する。
まるで舞うように、迷いなく、しなやかに。
飯田くんの猛攻をかわし、いなして、翻弄する。
「速すぎる!追いつけねえ!!」
観客席から驚きの声が上がった。
熱気が一気に押し寄せてくるのがわかった。
「ハハハッ!見ろよ、これ!
機動力の鬼、飯田天哉がまさかの足止め!!
しかも一瞬で圧倒されたぞォォッ!!
星野想花、まるで全能の翼じゃねえか!!」
プレゼントマイクの叫びとともに、会場が沸き立つ。
やがて、汗をぬぐいながら飯田くんが私を見て、ふっと苦笑する。
「……認める、君は強いな――完璧な攻防だったよ」
私は微笑んで、ほんの少しだけ頭を下げた。
そして、背中に風を感じながら土俵を後にする。
(次も、ちゃんと戦おう)
「これからの戦いも、見逃せないぜ!」
マイクの声が響き、次の戦いへと会場の視線が移っていく。
でも私は、まだ胸の鼓動が鳴り止まなかった。
この一戦が、私にとっての“はじまり”だったから。