第7章 君に負けたくない
「さあ、続いてのカードはこのふたり!
ヒーロー科A組・上鳴電気!
対するはB組・塩崎茨ぁ〜〜〜っ!」
プレゼントマイクの熱いコールが響きわたり、会場がざわめく。
『あ、上鳴くん……大丈夫かな』
ピースしながら出てくる上鳴くんは、どこかいつも通りで。
でも、その背中が少しだけ心もとなく見えた。
対する塩崎さんは、手を組んで祈るような姿勢。凛として、静かだった。
「えー……そ、その、よろしくっす!お、お手柔らかに~!」
ぎこちない笑顔と裏腹に――
ズルズルズル……!
『うわっ!?』
会場の隅々まで伸びる無数の“ツル”が、一瞬で土俵を覆い尽くす。
「……マジかよ!?速――」
その言葉が終わる前に、上鳴くんの足がふわっと浮いた。
「ちょ、ちょっと待って!ま、まだ個性使ってな――うわあああっ!?」
ツルに巻かれたまま、彼は土俵の外へぴょいっと放り出される。
「うおっとォー!?
B組・塩崎茨、まさかの圧勝ぉーー!!
上鳴くん、電気つける間もなかったァァ!!」
『……は、早かった……』
『ちょっと……かわいそうかも……』
観客席からもちらほらと、そんな声が漏れはじめる。
相澤先生の小さなひとことが、妙にリアルだった。
「……あいつ、また反省ノート増えるな」
──
【控え室】
『……轟くん』
ひとり、控え室のベンチに座っていた。
さっきの、あの一瞬の笑顔が頭から離れなかった。
本当に笑ったのかなって、今でも胸の奥でざわざわしてる。
(……なんであんなふうに、笑ったんだろう)
普段なら、私は迷いなく前に出られるはずなのに。
今はどうしてだか、身体が地面に縫いとめられてる気がした。
(……私に、できることってなんだろう)
どうして戦うのか。
ヒーローになりたい理由。
そして、この体育祭で“証明したい”って思ってることは――
そんな思考を断ち切るように、場内アナウンスが響いた。
「第4試合!
星野想花 対 飯田天哉!!
出場選手は土俵へお願いします!」
『……っ』
私は立ち上がる。
心の奥に、じわりと熱が灯った気がした。
『よし。行こう』
――今度は、迷わず前へ。