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【ヒロアカ】re:Hero

第7章 君に負けたくない


――第2試合:轟焦凍 VS 瀬呂範太。

アナウンスが響き、土俵に立つふたりの姿がスクリーンに映し出される。

『……轟くん?』

胸の奥がざわついた。

いつものように冷静で静かなはずの彼が――
どこか違って見えた。

(……あの時の目)

開会式前。
彼がエンデヴァーと話していたのを、私は偶然見かけた。

遠くて声は聞こえなかったけど、それでも分かった。
ふたりの間に漂う、刺すような空気。

(……すごい、憎しみ)

そう感じたのを覚えてる。

「それでは準備よろしいですか!?
第2試合、スタート!!」

ホイッスルの音と同時に、風が凍った。

轟くんが右足を一歩踏み出す。

その瞬間――

冷気が爆ぜるように広がり、土俵を一気に氷が覆う。

『っ――!』

瀬呂くんが反応する間もなく、氷に飲まれた。

試合、終了。

観客席が一瞬で静まり返る中、プレゼントマイクが戸惑った声で叫んだ。

「な、なんだこの一撃〜!? 轟焦凍、開幕からギアが違うぞ〜〜〜!!」

相澤先生の低い声が重なる。

「……吹っ切れたな」

勝負は、ほんの数秒で終わった。

けれど――

轟くんの表情は、勝者のそれじゃなかった。

氷の中心に立つ彼は、ただ静かに。
まるで、自分の何かを押し殺すような、孤独な目をしていた。

(……違うよ、轟くん)

勝ちたかったんじゃない。
ただ、戦わなきゃいけなかっただけ。

気づけば私は、席を立っていた。

「星野!」

誰かが呼んだけど、立ち止まれなかった。

このままじゃ――彼がひとり、傷ついて終わってしまう気がして。

土俵のすぐそばに走り寄って、声をかけた。

『……轟くん!』

彼はゆっくり顔を上げて、私を見た。

『……無理してない?』

問いかけに、一瞬だけ目を見開いて――
ふっと、小さく、笑ったように見えた。

「……大丈夫だよ。ありがとう、星野」

その微かな笑みに、胸が締めつけられる。

(……やっぱり、あなたは強い人だ)

でもその強さが、誰にも見えない痛みと一緒なら。

私は、その痛みに気づける人でいたいって思った。
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